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ポリネシアの神話伝説

概観

おそらくは全体的に聖書の第二の日から第三の日にかけての内容に一致するように思われる。また、食人が女によって引き起こされている感じは強い。そして、マウイが空と海の交わるところに住む怪女を倒し損ねたことが、鮫を産むことに繋がっているようだ。このことが常に一貫してループしているように思う。それから、物語の途中で出てくる最初の助け手をみんな信用していず、素通りしている。そして、海に魔法の樹を落としたことに関する神話もあるようだ。

目次

  1. 世界の始め(その一)
  2. 世界の始め(その二)
  3. 天地の分離
  4. 日月の起源
  5. 月に捕らわれた女(その一)
  6. 月に捕らわれた女(その二)
  7. 海の起源
  8. 人類の起源(その一)
  9. 人類の起源(その二)
  10. 洪水神話
  11. 海を持ち歩く女神
  12. 火山の女神
  13. 陸地釣り
  14. 太陽を縛る話(その一)
  15. 太陽を縛る話(その二)
  16. 爪の火盗み
  17. マウイと火造鳥
  18. 鰻退治
  19. 椰子の起源
  20. 怪女の胎内潜り
  21. 両親探し
  22. 巨人退治
  23. 人食いの最期
  24. 魚の王の妻
  25. 冥府の入れ墨
  26. 生死の誓い
  27. 冥府への墜落
  28. 椰子の殻に詰めた霊魂
  29. 腹を裂くお産(その一)
  30. 腹を裂くお産(その二)
  31. 不貞な妻
  32. 鯨の乗物
  33. 人食い鵜の鳥
  34. しっぺい返し
  35. 岸と人間との伸比べ
  36. 継母物語
  37. 人間鮫の大暴れ
  38. 鮫の神の助力
  39. 梟の戦い
  40. 若人の死
  41. 体に還った亡魂
  42. 無実の罪

神名・人名等

神名登場神話説明
タンガロア1,3魚と爬虫類の父神
タマ・ポウリ・アラマフォア2,天界の王者という名
タンガロア・エイキ2,天界の首領という名
タンガロア・ツフガ2,天界の工匠という名
タンガロア・アツ・ロゴ・ロゴ2,天界の使者という名
ランギ3,天父の義、天空を男性に人格化したもの。またマンガイアの初代王の名もランギ。
パパ3,地母の義、大地を女性に人格化したもの
ツ・マタウエンガ3,一番気性の激しい神、乱暴な人間の父神
タネ・マフタ3,(26)森や森の中に住むすべての者の父(おそらく26に言われるタネもこの神だと思われる、また、ヒネ・ツ・ア・マウンガとの間にヒネ・イ・タウ・イラが生まれる。)
タウヒリ・マ・テア3,風の神
ロンゴ・マ・タネ3,人工の食物の父神
ハウミア・チキチキ3,自然食物の父神
トンガイチ4,パパの子供の下半身から月を作った
ヴァテア4,パパの子供の上半身から太陽を作った
ロナ5,月に連れ去られて天界に行った女
クイ6,盲目の男、幾人もの美しい乙女を持っていて一人が月にとられた
アテア7,天の神
アタヌナ7,アテアの妻、流産したときの羊膜から流れた液が溜まり海となったという。
ムムハンゴ8,タネの妻、トタラという樹を産む
トタラ8,タネとムムハンゴから生まれた樹
ヒネ・ツ・ア・マウンガ8,タネの妻、爬虫類を産む
ランガホレ8,タネの妻、石を産む
ウンガオレ8,タネの妻
バーキ8,タネの妻
ヒネ・アフ・オネ土で作られた乙女の意味。タネがクラ・ワカの浜辺の土を集めて作った乙女でタネの妻。鳥の卵を産んでから人間の女を産んだ。
ヒナ9,人間を探して夫であったタアロアとチイという人間の祖先を産む
タアロア9,妻であったヒナが人間を探した際に人間に変装して再び妻と一緒になる。
チイ9,ヒナとタアロアの息子で人間の祖先
ルアハク10,海の神
アオケウ10,雨の神
アケ10,海の神
ロンゴ10,海の神と雨の神の勢力争いを辞めさせた。
セヴェ10,
ポウニウ10,
タウハキ11,洪水神話の中で登場する。天界の床を強く踏んだことや、乱暴で母を悲しませた際のその涙等が洪水の原因とされている。(オグやカナンと似ている)
ペレ11,ワヒアロアの夫、夫の不倫後、夫を探すために海をもって旅をする。(バハームトの牛の上に載っている少女?)また、カハワリと橇で競争する。
ワヒアロア11,ペレと結婚した男で、のちにペレクムラニと駆け落ちする。
ペレクムラニ11,ペレと駆け落ちした乙女
カハワリ12,ケアリクキ地方の酋長。ペレと橇をする。
コアイ12,カハワリの妹
マウイ13,14,15,16,17半神半人の英雄で、ニュージーランドを釣り上げる。
マフイケ16,マウイの先祖で火をくれる。
ツナ18,19,鰻の姿をしてマウイの妻を叩いた。死んだあと頭や体からは木や草や魚、深淵の怪物等がでた。
イナ19,ツナの恋人
ヒネ・ヌイ・テ・ポ20,マウイの先祖で空と海とが一緒に出会っている所で、大きな口を開いたり閉じたりしている怪物の女。
タマ・ヌイ・イテ・ラ20,太陽の名
ウハイタリ21,雷霆という女神。ウハイタリは人間の肉を自分の食べ物としていた。
カイ・タンガタ21,人間を食うものという名
ヘマ21,ウハイタリの産んだ子供の一人、タウハキとカリヒの父
タウハキ21,ヘマの子。母を助けて、父を訪ねて天界へ上り神様から呪文を教わって下界に降りた。
カリヒ21,ヘマの子
ワヒエロア22,タウハキの子、妻に珍しい食べ物を求められ、遠くに赴きその間に巨人マツクに殺される。
マツク22,ワヒエロアの向かった国に住む巨人。
ラタ22,ワヒエロアの子。父の仇マツクを倒す。
ハウメア23,ロオ・ヌイの妻である女神。夫に逃げられ、子に逃げられ、のちにノナと名を変えて人食いとなった。
ロオ・ヌイ23,ハウメアの夫
ツツレ23,ハウメアとロオ・ヌイの子
ヒナ24,33高価な装飾品をナンガにとられた女。その後魚の王チニラウの妻となる。
ナンガ24,ヒナの家の装飾品を盗む。
チニラウ24,33魚の王、ヒナを妻にもらう。
ルペ24,33ヒナの弟
マタオラ冥府の者であるヌヴァラフを妻とした男。
ツレフ大地の下の世界である冥府に住む死人の霊のこと。
ヌヴァラフツレフの女、非常に麗しい容貌で、マタオラと夫婦となる。
ウエトンガマタオラの舅で、入れ墨を彫る職人。冥府の住人。
イワカワ20,マウイがヒネ・ヌイ・テ・ポの胎内に入るときに笑ってしまった鳥
チワイワカ25,マタオラが人間界に出る時に出会った鳥
ヒネ・イ・タウ・イラ(ヒネ・ヌイ・テ・ポ)26,タネ神とタネ神が土をこねて作った女との間に生まれた娘で、タネの妻となった。その後冥府へ下り、人間を死にやる役割を司る、夜の女神となる。
エネエネ27,クラの夫妻を冥府から助け出す。
クラ27,樹から落ちて冥府に着き捕らわれたが夫エネエネによって助け出される。
ヒク28,
カウェル28,
ミル28,冥府の王
ツラ29,遠くの国で嫁を貰う。そこの出産が帝王切開だったがそれをとめて普通の方法で子を産むに至る。
ツ・テ・コロ・フンガ31,タマ・ヌイ・ア・ランギの妻ルク・チアと駆け落ちする。
タマ・ヌイ・ア・ランギ31,ツ・テ・コロ・フンガに妻を取られ、探しに行く。妻を連れ戻したが殺してしまう。のちに生き返る。
ルク・チア32,タマ・ヌイ・ア・ランギの妻、夫に殺されるが、再び生き返る。
ツ・フルフル33,チニラウとヒネの子供、母を探しに旅に出て父の許に連れてくる。
カエ33,チニラウがツ・フルフルに洗礼を施す際に呼んだ男。
ウタホウメアの夫、子供と妻が乗り移った鵜から逃げる。
ホウメアウタの妻、夫を騙して魚を食べ、挙句に子供までたべる。(ハウメアと似ている。)
ホウマイ・タワイチ34,犬を飼っていたがウエヌクの神聖な持ち物を穢した。ウエヌクに犬を食べられる。
ウエヌク34,犬を殺して食べた。
タマ・テ・カプア34,ホウマイ・タワイチの息子、兄。弟とウエヌクに仕返しをし、捕らわれた弟を助け逃げ出す。
ファカツリア34,ホウマイ・タワイチの息子、弟。兄とウエヌクに仕返しをし、捕らわれるが、踊りを踊って隙を作り兄と逃げ出す。
カピピカウイラ35,モロカイ島の北岸の険しい崖の上に住む男。ハカラニレオの妻ヒナを奪い自分の妻にする。カウアによって、妻を奪還される。
ハカラニレオ35,妻にヒナをもつ男。カピピカウイラに妻を取られ、取り返すために強い男を探し回る。
ヒナ35,ハカラニレオの妻。
カマルルワル35,初めにハカラニレオが見つけた頼もしそうな男、片方の脇腹が石でできている。
カウア35,ニケウに勧められた勇者、身体を伸ばして崖の上のカピピカウイラと戦う。魔法の樹の枝を海へ投げ捨てる。(第三の日に海に落ちた種の正体かもしれない)
ニケウ35,ハカラニレオにカウアを勇者に勧める。その後、ヒナを連れ出そうとするが失敗する。カウアの足を一本食べてしまう。
ウミ37,ハワイの王様
カレイ37,鮫の王カモホアリによって起こされた高波から助けられカモホアリとの間にナナウミを産む。
ナナウミ37,カモホアリとカレイの子、背中に鮫の口がある。
カモホアリ37,鮫の王で、カレイに恋をして若者の姿で高波からカレイを助けだし、二人の間にはナナウミが生まれる。
クパ38,モロカイ島の王様。神聖な太鼓を鳴らしたカマロの息子二人を処刑する。
カマロ38,クパに仕える僧侶。
ラニカウラ38,モロカイ島の東の果てに住む、魔法使い。
カネアカマ38,島の西の端にいる予言者。
カヒワカアプウ38,島の風側に住んでいる僧侶。
カウフフ38,鮫の神。カマロのクパへの復讐を助ける。
ワカ38,カウフフのに仕える番人
モオ38,カウフフに仕える番人
カポイ39,梟の卵を取ったが返してやり、代わりに社を建てると長生きすると言われたが、オアフの王に眼をつけられた所、梟たちに助けられる。
プウペヘ40,ウアウアの娘でマカケハウと結婚する。海が荒れった日に波が打ち寄せて溺れ死んだ。
ウアウア40,プウペヘの父。マウイの王様の家来で地方の酋長。
マカケハウ40,プウペヘの夫。プウペヘを崖の上に埋葬したのち自ら飛び降りて自殺した。
カカアラネオ41,マウイの王様
エレイオ41,カカアラオネのクニキ(走者)死んで埋葬塔にいた乙女の霊と
アカアカ42,山嘴(やまのはし)ナレフア・アカアカと夫婦
ナレフア・アカアカ42,藪、アカアカと夫婦
カハウカニ42,アカアカとナレフア・アカアカの子供、男、姉妹のカウアクアヒネの夫。風。
カウアクアヒネ42,アカアカとナレフア・アカアカの子供、女、兄弟のカハウカニの妻。雨。
カハラオプナ42,カハウカニとカウアクアヒネの娘、驚くほど美しい美人。カウヒの許嫁。
カウヒ42,若い酋長でカハラオプナと婚約していた。カハラオプナを殺したことで焼き殺されて、その骨が海に流れ鮫になる。
エレパイオ42,緑色の小鳥、カハラオプナの親類。
カエア42,巫術師
クマウナ42,自分がカハラオプナに愛せられていると言う。花や歯朶で作った頭飾りを愛の徴として受け取ったと言いふらす。
ケアワア42,自分がカハラオプナに愛せられていると言う。花や歯朶で作った頭飾りを愛の徴として受け取ったと言いふらす。

物等

名称概要
クニキ訓練せられた奏者
アワ苦くて酸味のある植物で、その根から人を酔わしめる飲物が醸される。その飲み物もまたアワと呼ばれる。
アペの広葉

地名

地名概要
サモア
エウア島
トンガ諸島
クック諸島
マオリ族
マーケサス諸島
タヒチ
ソシエテ群島の中のライアテア
ハパクエラ大空の南の果ての人間界を離れた国
ハワイ・ネイ
カナロアの地
ハレアカラ高い山
マウナケア高い山
マウナロア高い山
カウアイ島
モロカイ島
カウハコの噴火口
プウライナ
キラウエア噴火口がある。ペレとカハワリが橇をした。
ケアリクキ地方ハワイ
プウケア
クラ
クキカハワリの母が住んでいる所。
マウイ島
ラナイ、ラナイ島ラナイ山がある。
オアフカハワリの長くとどまることにした場所。
タヒチ
マンガイア
ラロトンガ
コナ
ポウナホウの泉
カヘフナホノルルにある。
マヌア毎日祭壇に供物をささげる、カポイが立てたお宮
マラウエアの洞穴マカウエアとプウペヘが一緒に住んだ洞穴
マノアの谷
ワイキキの海

世界の始め(その一)

大昔タンガロアという神が、天界から見下ろすと、遥か下の方に果てしない海原が広がっていて、そこに一つの石が浮かんでいるのに気が付いた。
タンガロアは、この石を天界に持ち上げて、女の形をこしらえて、活きて動くようにして、自分の妻にした。
暫くすると、その女が一羽の鳥を産みました。女は鳥に下界に住むように言いつけたが鳥は下界は水ばかりで、いる所がないと答えた。
女は住処をこしらえると言って、天界から大きな岩を海原に投げおろした。鳥は下界に降って行って、その界に住むことにしました。
しかし岩は丸裸で、陽に照り付けられていて、暑くてたまらず、鳥は天界に昇ってタンガロア神に向かい下界に降ったが岩に樹が一本も生えていず陰がなく困っていると訴えた。タンガロアは陰をこしらえると言って葡萄の樹を投げおろした。樹は岩の上に落ちて、根をはり間もなく大きくなったので、気持ちのいい陰が出来た。鳥は大変喜んで、葡萄の実を食べたり、葉陰に休んだりしていたが、あるときタンガロア神の気に障ることをしたので、神は怒って、天界から沢山の虫を下界に送り出した。虫どもは葡萄の樹にたかって、葉をかじり枝をかじって、とうとう枯らしてしまった。
暫くすると、腐れた葡萄から蛆が湧いて、その蛆が湧いて、その蛆から人間が生まれた出た。(サモア)

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世界の始め(その二)

世界の始めに、天界にタマ・ポウリ・アラマフォア(天界の王者)という神と、タンガロア・エイキ(天界の首領)と言う神と、タンガロア・ツフガ(天界の工匠)という神と、タンガロア・アツ・ロゴ・ロゴ(天界の使者)という神が住んでいた。
あるときタンガロア・アツ・ロゴ・ロゴは他の神たちから下界に降って、陸地があるかどうかを調べてもらいたいと頼まれた。それで、天界の使者であるこの神は、一羽の鳥に乗って、下界に降りていき、あちこちを飛び回り、陸地はどこにも見つかれず、砂岸の上に波が襲いかかっている所が目に付いただけだった。
タンガロア・アツ・ロゴ・ロゴは天界に帰って、神々に、下界には乾いた陸地はなかったと言った。他の神々は七日待ってまた降りてみるように言い、タンガロア・アツ・ロゴ・ロゴは、七日経ってから、下界に降りると、陸地がすでに水の面に現れかけていた。天界に帰って、このことを話すと、神々はまた、暫くたって再び降りてみるように、また、現れかけているのは大地であると言った。
タンガロア・アツ・ロゴ・ロゴは、神々に向かって、降りて行くのはいいが、身体を休めるところが無いので休むところを作るようにと頼んだ。
すると、天界の工匠であるタンガロ・ツフガは仕事に使っていた木の屑を天界から投げ下ろすと、それが海の上に落ちて、一つの島となった。それが今日のエウア島である。
神々はタンガロ・アツ・ロゴ・ロゴに向かって、島が出来たので下界に降り島に住むことにするように言った。タンガロ・アツ・ロゴ・ロゴは、下界に降って行ったが、やがてまた天界に引き返してきて、陸地が出来て住むには充分だが木や草が一本も生えていないのには困ると言った。神々は一粒の種子を与えて、植えるように教えた。タンガロ・アツ・ロゴ・ロゴが下界に降って、その種子を植えると、やがて芽をだして枝を伸ばして、大きな葡萄の樹となった。(トンガ諸島)(注あり)

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天地の分離

世界の初めに、ランギがパパに思いを寄せた。その頃には太陽もなく、月もなく、星もなければ雲もなく、光もなければ霧もなかった。ただ真っ黒い闇が世界中に広がっているだけであった。ランギはパパが裸でいるのを憐れんで、草や木を体中に植え付けて、いろんな虫をその間に放ち、また蟹や貝類や、その他の生き物で、彼女を飾り立てて、それから彼女をひしと抱きしめた。
二人はいつまでも相抱いていた。だから彼から生まれ出た神々は、二人の体の間の真っ黒いところに挟まって、いつも窮屈そうに闇の中にうごめいていなくてはなりませんでした。
神々はとうとうそうした生活に我慢が出来なくなったので、ある時集まって、何とかしようと考えた。一番気性の激しいツ・マタウエンガという神が二人を殺そうと言いました。すると森や森の中に住むすべての者の父であるタネ・マフタと言う神が遮って産みの親を殺すのはよくないので、二人を遠く引き離すことにしようと言った。他の神々はみんなタネ・マフタの言葉に賛成した。しかしタウヒ・マ・テアだけは、両親の間を裂くことを大変悲しんだ。
神々はいよいよランギとパパとを引き離す手段に取り掛かり、まず人工を加えた食物の父神であるロンゴ・マ・タネが、ランギを上の方に押し上げようと思って、体中に力を込めて起き上がった。しかしランギはびくともしなかった。次に魚と爬虫類の父神であるタンガロアが立ち上がったが天父と地母は固く相抱いて離れなかった。今度は自然食物の父神であるハウミア・チキチキが立ち上がって、満身の力でもがき回ったがこれも駄目だった。それから今度は乱暴な人間の父神であるツ・マタウエンガが立ち上がったが、これもやはり失敗に終わった。最後に森と鳥と昆虫の父神であるタネ・マフタが歯噛みをして立った。そして逆立ちをして、母なる大地パパの体に確と頭をつけ、父なる天空ランギの体に双の脚を当てたかと思うと、あらん限りの力を背と手足とに込めて、うんと背伸びをした。とさしも堅く抱き合っていたランギとパパとが、互いに離れ始めた。二人は悲しそうに呻きながら、両親の間を裂くとは、なんと恐ろしい罪業ではないかと叫んだ。しかし、タネ・マフタはその声を耳にも入れないで、いよいよ力を込めて、母なる大地を下へ下へと押し上げ、父なる天空を上へ上へと押し上げた。こうして天と地とは今日のように遠く隔ってしまった。しかし、ランギは今もなお愛するパパを偲んで、夜毎涙を流します。人間たちはその涙を露と呼んでいます。(ニュージーランド)

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日月の起源

地母パパが、ある時一人の子供を産んだ。するとヴァテアという神と、トンガイチという神との間に激しい争いが起こった。
ヴァテアが今度生まれた子供の父は自分だというと、トンガイチもその子供を自分の子供だと言い張った。二人の神はこうしてどちらも新しく生まれた子供の親であると言い張り、いくら争っても果てしがないので、とうとう二人が申し合わせて、子供の体を二つに切ってめいめいが半分ずつ我物とすることにした。
子供の体が二つに斬り分けられると、ヴァテアは、上の方の半分を取り、トンガイチは下のほうの半分を取った。ヴァテアは、すぐに子供の上半身を空に投げた。すると空に留まって、激しく光り輝くようになった。それが太陽だった。トンガイチは、子供の下半身を大地に放り出しておいたので、血がどんどん流れだして白くなった。そうしているうちに、ヴァテアが子供の体で太陽をこしらえたのが、ひどくうらやましくなってきた。そこで、ヴァテアに負けじと、ヴァテアの真似をして、子供の下半身を空に投げ上げた。と、それも空に留まって、光り輝くようになった。それが月だった。
しかし、トンガイチが投げ上げた子供の体は、たくさん血を失って蒼白くなっていたため、空に移っても、太陽のように真っ赤に輝くことができないので、冷たく蒼白く光るのであった。(クック諸島)

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月に捕らわれた女(その一)

ある夜、ロナという女が、近くの流れに水を汲みに行った。ところが家をでたかと思うと、、今まで明々と照らしていた月が、急に雲に隠れて、あたりが真っ暗になってしまった。それがためにロナは石ころや樹の根につまずいて、幾度となく大地に転がった。
ロナはとうとう怒りだして、とんまな月だ、人の気も知らないで、と月を罵った。これを聞くと月は腹を立てて、天界から大地に降って来て、ロナをつかむなり、空に飛びあがった。ロナは一生懸命に身をもがいたが、月はどうしてもつかんだ手を緩めてくれず、折から手に触れた高い樹の枝にしがみついた。それでも月は物凄い勢いで飛び上がり、樹が根こそぎ大地から抜けてしまった。
こうして月は、水を汲む瓢と樹とを手にしているロナをとうとう天界に連れて行ってしまった。だから坤為地でも月の中には、女と瓢と樹とが、ありありと見えている。(マオリ族)

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月に捕らわれた女(その二)

あるところにクイという盲目の男が住んでいた。クイには美しい娘が幾人もあった。月がそのうちの一人に思いを寄せ自分の物にしなくてはならないと言い、ある夜、天界から大地に降りてきた。そしてクイの家に行ってみると、目指す乙女は、炉の側に座って、木の葉をくべて、火箸でそれをかき混ぜっていた。それを見ると、月はいきなり駆け寄って、彼女を抱えあげるや否や、空に飛びあがってしまった。だから、今日でも、月の面には、女と木の葉と火箸とが、はっきり現れている。
乙女は、天界でいつも布をこしらえていて、布ができると、漂泊するため長々と引きはえて、風に飛ばないように、所々に石を載せて置く。そしてその布や石も、ちゃんと月の面に見られる。彼女は時々布を抑える石をはねのける。その石は、互いにぶつかって、大きな音を立てる。人間はそれを雷と呼んでいる。(クック諸島)

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海の起源

ポリネシアでは、海がどうしてできたかを説く神話が、多く見出されている。話の筋は至極簡単であるが、日夜大海原を眺めて暮らしている海島民の心理(海の起源に関して、どんな考えを持っているかを示すもの)として興味がある。
サモアの神話によると、世界の初めに、一匹の烏賊(いか)があって、得意になって、あちらこちらを歩き廻っていると、いやという程に岩にぶつかって、墨嚢を破られた。墨嚢からは、青黒い汁がどんどん流れ出して、四方に溢れて、とうっとう海になったと言う。
マーケサス諸島の神話によると、昔、天の神アテアの妻アタヌナが身重になったが、不幸にも流産した。その時に羊膜から流れ出た液が溜まったのが海であるという。

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人類の起源(その一)

タネ(タネ・マフタ)が自分の両親のランギとパパとの間を引き離した後で、パパと結婚をしようと考えた。で、そのことをパパに話しますと、パパは頭を振って、母と結婚をするようなことがあればきっと災いがあるからムムハンゴをお嫁にするがいいと言った。
タネはその言葉に従って、ムムハンゴと結婚したが、この女が産んだのは人の子ではなくトタラという樹だった。タネはそれでは満足が出来なかったので、母のパパの所に行って、樹なんか産む女は駄目だと言った。パパは、ヒネ・ツ・ア・マウンガを嫁にするようにと言った。
タネはその言葉に従って、ヒネ・ツ・ア・マウンガと結婚した。彼女は間もなく身重になり、月満ちて生まれたのは、人間ではなくて、爬虫類だった。タネは不平で堪らず、パパの所に駆けつけて、爬虫類なんか産む女は駄目だと言うと、パパは、ランガホレをお嫁にするように答えた。
タネは、その言葉に従って、ランガホレと結婚したが、今度も人の子は生まれないで、石が生まれた。タネはいよいよ気を悪くして、母なるパパを責め立てた。そのたびにパパはウンガオレ、バーキなど、女を嫁に勧めたが、いずれも変なものばかり産み落とすので、タネはがっくりして、自分には到底子孫を持つことはできないのかもしれないとこぼしていた。母なるパパは気の毒に思って、タネの先祖の海原を訪ねて行ってクラ・ワカの浜辺に着いたら、そこの土を集めて、人間をこしらえるように教えた。
タネは教わった通りに、クラ・ワカの浜辺の土を集めて、まず胴体を作って、それから頭を作って、両腕をつけて、両足をつけて、腹の面面を叩いて、立派な女の姿にした。タネはこうして出来上がった女にヒネ・アフ・オネ(土で作られた乙女)という名を与えて、自分のお嫁にした。ヒネ・アフ・オネは、初めに鳥の卵を産んで、それから人間の女を産んだ。その卵からあらゆる鳥が生まれ、その女が、今日の人間の祖先となった。(ニュージーランド)

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人類の起源(その二)

大昔、ヒナという女神が、夫のタアロア神に向かって、大地には人間というものがないがどうすればよいか尋ねた。タアロアは大地の奥に行ったら、多分人間が住んでいるだろうと答えた。ヒナは大地の奥に行ってみたが人間は見つからなかったと答えた。タアロアは海端にいるだろうと言った。
そこでヒナは人間を見つけるため、海端へ出かけて行った。ヒナの姿が見えなくなるや否や、タアロアは人間というものは、どんな物質から成り立つべきものであるか、またどんな形態をしているべきものであるかをよく考えた。そして考え出した物質と形態とからなる人間に変じて、ぶらりぶらり歩き廻っていた。
ヒナは海端を根気良く歩き回ってみたが、どうしても人間を見つけることあできないので、がっかりして夫の許に帰りかけていた。すると向うに人間らしいものが立っていた。ヒナ女神は驚きかつ喜んで、その傍に駆け寄り誰かと尋ねると、人間に成りすましたタアロア神は自分が人間であると答えた。ヒナ女神はますます喜んで、内地や海端を探したのに姿がなくてどこにいたのかと尋ねると、タアロアは、私はここにいたのだと答えた。ヒナ女神は私と一緒に暮らすことにしようと言うと、人間と思い込んだ夫と一緒になった。しばらくすると、ヒナ女神はチイという男の子を産んだ。そしてこの男子が人間の祖先となった。(タヒチ)

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洪水神話

ポリネシアにも、さまざまの内容を持った洪水神話が、多くの島に見いだされている。
ソシエテ群島の中のライアテアの神話によると、昔一人の漁夫が、ある日海に出て魚を釣っていると、海底に眠っていた海の神ルアハクの頭髪に釣り針を引っ掛けた。漁夫は手ごたえが強いので、内心大いに喜んで、素晴らしい魚がかかったに違いないと思い一生懸命に引き上げようとした。海の神は手荒く頭髪を引っ張られたのに、すっかり腹を立てて、海の面に躍り出るなり、漁夫を捕らえて、摑み殺そうとした。漁夫は真っ青になって、命乞いをし、ひたすら詫びた。これを聞くと、海の神は少し機嫌を直して、漁夫は許したが、こんなことがあった以上、世界中の奴らを殺してしまわなくては気が済まないと言って、漁夫に一人の友達と一匹の豚と、一匹の犬と、一番の鶏を連れて、小島に逃れるように言った。漁夫は海の神に教わった通りにした。すると間もなく海の水が高まって、大地に溢れて、人間という人間がことごとく溺れ死んでしまった。ただ漁夫だけが辛くも命を助かった。
クック諸島の中のマンガイアの神話によると、昔、雨の神アオケウと、海の神アケとが、勢力争いを始めた。二人とも、自分の方が相手よりも勢いが強いと言い張った。しかし、口だけでは仕方がないので、とうとう海の神アケは、海の水を高めて、すさまじい大波を陸地に送った。これを見た雨の神アオケウも負けじと、たちまち天地も崩れるような大雨を降らし始めた。こうして二人の神の争いから、大地一面に洪水が漲った(みなぎった)。人間どもはみるみる、溺れ死んでいった。マンガイアの初代王ランギは、水に埋め残された山の頂に逃れて、ロンゴという神に、溺死を免れられるよう祈った。ロンゴ神は彼の祈りを聞き入れて、海の神と雨の神とに勢力争いをとめるように命じた。こうして洪水がやっと退き始めた。
サモアの神話によると、昔大きな洪水が起こって、すべての人間が溺れ死んでしまった。ただピリという男とその妻とだけが、高い岩の上に逃げ登って、やっと命を助かった。 同じくサモアの他の神話では、セヴェというものと、ポウニウというものだけが、辛くも生き残って、一生懸命に大水の中を泳ぎ回っていた。タンガロア神が、天界からそれを見て、可哀想におもい二人の召使を下界に遣って大水に溺れかけている二人の者を助けるように命じた。二人の召使は、鈎(かぎ)を手にして天界から下って行き、海の底に沈んでしまったサモア島に鈎をかけて、水の面に引き上げた。泳ぎ着かれて死にかけていた二人の者は、これを見ると、やっと島に泳ぎ着き危ない命を拾った。
このほかにも、タウハキという神が、天界の床をあまり強く踏んだので、床が割れて、天の水がことごとく大地に迸り落ちて、大洪水となったという神話やタウハキの母が、我が子の乱暴な行いを悲しんで、激しく泣いたので、その涙が大地にこぼれて、大洪水となり、人間という人間をすっかり溺死させたという神話などがある。

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海を持ち歩く女神

大空の南の果て、遥かに人間界を離れたハパクエラと言う国に、ペレという女神が住んでいた。ペレは、年頃になった時二ワヒアロアという若者と結婚したが、しばらくすると、ワヒアロアはペレクムラニという乙女に誘われて、妻なるペレを捨てて、どこかへ姿を隠してしまった。
ペレは嘆き悲しんで、夫を探すために、宛てもない旅に出かけました。両親は、彼女に「海」を与えて、何かのためになるかもしれないから、一緒にもっていくようにと言った。ペレは「海」を自分の頭の上にのせて、まずハワイの方に出かけた。今日でこそハワイは島であるが、その頃はまだ海というものがなくて、一面の荒野であった。ペレは、ハパクエラの地からカナロアの地へと、寂しい旅をつづけたが、彼女の頭の上に載っている「海」は、その間絶えず流れ続けたので、それらの地に大水が出て、谷を埋め丘を没してしまった。ただ、ハレアカラやマウナケアやマウナロアのような高い山の頂が、水の面に現れているだけでした。しばらくすると、水が少し退いて、今日のように海の間にいろんな島が現れた。
ペレは、ハワイ・ネイに着いて、暫くカウアイ島に住んでいましたが、やがてモロカイ島に移って、そこにあるカウハコの噴火口に留まることにした。その後、プウライナに移り、それからまたハレアカラに移り、そこに大きな噴火口を掘って、最後にハワイのキラウエアに行って、そこに噴火口をっ作って永く留まることになった。(注有)

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火山の女神

ハワイのケアリクキ地方に、カワハリという酋長が住んでいた。ある日、カハワリは橇遊びをしようと日頃竉愛の一人の男を連れて、とある丘に出かけた。大勢の人がカワハリの橇遊びの腕を見ものに丘の麓に集まった。それを見ると、今度は音楽史や踊り手などが、大勢が集まったから楽しませようと同じく丘の麓に集まってきた。
やがて、太鼓の音が、明るい響きをたて始めて、歌声があたりの空気を快く震わせ始めた。カハワリとおつきの男は笑って、おかげで調子が良くとれるといいながら、丘の上からまっしぐらに滑り下りては、また登って行った。見物の人たちは、その巧みな技に感心して誉め立て、音楽師や躍り手たちも調子に乗って、一生懸命に歌ったり踊ったりしていた。
すると女神ペレがその騒ぎに浮かれ出して、キラウエラの噴火口から出かけてきた。彼女は自分の素性を悟られないように、普通の女の姿をして、丘の頂に立ち酋長のカハワリに橇滑りの競争を挑んだ。カハワリは喜んで受けると、二人はすぐに丘の頂から滑り降り始めた。カハワリはその道の達人であったがペレは至って不慣れだったので、狭い橇の上で体の釣り合いを取ることが、とにかく拙く、カハワリに負けてしまった。
見物人たちはカハワリが悠々と丘の上に引き返していく姿を見送り誉め立てた。二番目の競争が始まるとペレはカハワリに橇を貸してほしいと頼んだが、カハワリは競争の相手が火山の女神とは知らず、ただの女と思って、自分の妻でもないのに橇をかすことはできないと答えた。そしてそんなことで時をつぶすのは我慢が出来ないという風に急いで自分の橇に乗って、丘を滑り降りた。ペレはカハワリの返答にひどく腹を立てて、足を上げて地面を踏み鳴らした。
と、たちまちすさまじい地震が起こって、大きな丘が真二つに裂けた。彼女は更に大きな声で叫ぶと丘の裂け口から、猛火が噴き出し、真っ赤な溶岩が滝のように迸り出た。ペレは乙女の姿から火山の女神としての厳かな姿に返って、カハワリの後を追いかけた。
丘のふもとに着いたカハワリは、何気なく後ろを見やると、ただの女と思っていたのが厳しい神の姿となって、雷と雷光と地震と、燃え盛る溶岩の流れを引き連れて、激しく自分の後を追っかけてきた。カハワリはぐずぐずしていると命が無くなると叫んで、橇遊びを始める時、地面に突き立てておいた幅の広い槍を引き抜くと、お付きの男と一緒に逃げ出した。
プウケアという小高い地まで駆けてくると、カハワリは木の葉を編んでこしらえた衣を脱ぎ捨てて、海辺に立っている自分の家を裂いて走っていき日頃可愛がっていた一頭の豚がやってきたので、大急ぎで鼻を擦り付けてそれからクキに住んでいる母の家に飛んで行って、鼻と鼻をすり合わせて、しばしの別れの挨拶をした。そして、今度は、自分の妻に出会い、現在の状況を急いで話し、別れの鼻合わせをした。すると、妻は彼を引き留めて、自分の側で一緒に死ぬように言った。そうしているうちに、溶岩の流れが追い迫ってきたので、、カハワリは自分は逃げると言ってまた一散に駆けだした。駆けているうちに行く手に深い地割れが現れたので、カハワリは困ったと思ったが、ぐずついていると溶岩の流れに焼き殺されてしまうので、手にしていた幅広の槍を地割れの上に倒して、それを橋にして、首尾よく向うに渡った。後に続いたおつきの男が、おどおどした声で、私を助けて下さいと叫ぶので、カハワリは大急ぎで槍の柄に彼をすがらせて、力任せに自分の方に引き寄せた。
ペレは地割れを降って、一層足を速めて追いかけてきたがカハワリはクラという地迄逃げて、そこにいうる妹のコアイにそこそこに挨拶をして、海端までかけてきた。すると折よく弟が漁舟から磯に上がったところで、お付きの男と一緒にその舟に飛び乗るなり、槍を使って、海の上に漕ぎ出した。
ペレは海端迄追っかけてきたが、カハワリの舟がすでに遠く磯辺を離れたのを見て、手当たり次第に大きな石や岩の破片を摑んで投げつけた。石や岩は大きな音を立てて、雨のように舟の前後左右に落ちたが、幸いに舟には一つも当たりませんでした。
やがて東風がそよそよと吹きだした。カハワリは幅広の槍を舟の中に立てて、帆柱と帆との代わりにした。そしてそのお陰でで、やがてマウイ島に着いたが、彼はそこに一夜を明かして、すぐにラナイに行き、またモロカイに逃げ、さらに父と妹とが住んでいるオアフに移って、いままでの出来事を詳しく話した。そして火山の女神ペレの怒りを避けて、オアフに永く留まることにした。(注有)

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陸地釣り

ポリネシア神話に一番よく現れるのは、マウイという半神半人の英雄である。マウイは多くの兄を持っている。そして、彼らの末弟であり、いつも一番偉いことを成し遂げる。次に挙げる数個の物語がよくその趣を伝えている。
マウイ兄弟たちは一人の年取った女の先祖がいた。そして、マウイの兄さん大河かわるがわるその老女に食べ物を持っていくことになっていた。しかし、兄さんたちは、みんなその役目を面倒くさがって、途中で食べ物を自分の腹に入れてしまい、老女はいつもお腹を空かせていた。マウイはそれに気が付くと、兄さんたちに代わって、自分が食べ物を持っていくことにした。しかし、老女の所に行ってみると、彼女は病気にかかって、身体の半分がもう死んでいたため、マウイは老女の下あごをもぎ取って、それで釣り針をこしらえた。そして身の回りに隠して、釣りに行こうとしていた兄さんたちに自分も連れて行ってほしいと頼んだが、兄さんたちはマウイには何もつれないから黙って引っ込んでいるようにと罵られた。しかし、マウイは彼らの眼を盗んで、舟の中に潜り込んでいた。そして舟が沖合に出たとき、物陰から現れたので兄さんたちは大騒ぎをして、岸辺に戻れなど、水の中に放り込めだの、言っていたが、釣り針を貸しさえしなければマウイに釣りができるはずがないと思って、そのまま乗せていくことにした。
ところが、マウイはかくしていた魔の釣り針を取り出して、自分で自分の鼻を殴りつけて、流れ出る血をそれになすりつけ、それを海の中に投げ込むと何者かがすさまじい勢いで釣り糸を引っ張った。マウイは大きな魚がかかったと笑いながら、一生懸命になって引き上げると、それは海の底から釣り上げられた大きな陸地であった。陸地は大きな魚のように跳ねまわりそれを見るとマウイは兄たちに、綱で縛らなくてはならないから、綱を持ってくるまでそのままにして陸地を斬りつけてはだめだと言った。しかし、兄たちは陸地が激しく荒れまわるので、小刀を振りかざして、散々に陸地に斬りつけた。陸地は傷の痛みに激しく跳ね回り、とうとう船を微塵に叩き砕き、兄さんたちは殺してしまった。マウイはやっと陸地を縛り上げて、おとなしくすることができた。これがニュージーランド島であった。そして、陸地に多くの山や谷があるのは、小刀で斬りつけられた傷跡である。(ニュージーランド)

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太陽を縛る話(その一)

大昔、太陽は素晴らしい速さで空を走っていた。東の空に現れたかと思うと、やがて西の海に沈んでしまう。だからマウイのお母さんが、着物をこしらえる材料を火に乾かそうとしても、一度もうまくいかなかった。そこでお母さんtがいつもそれをこぼしていると、マウイが自分が太陽の脚を切り落として、速く走れないようにすると言った。お母さんは喜んで丈夫な綱をこしらえて、それをマウイに渡して、この綱だけでは心細いのでお祖母さんの所に行って相談するようにと告げた。
マウイのお祖母さんは、大変な年寄りで、そして目がつぶれていた。マウイがその家に尋ねて行くと、彼女はバナナを煮ていた。マウイはお祖母さんは目が見えないのを良いことに片っ端からバナナを食べていた。お祖母さんは変だと思い、あたりを嗅いで回るうちに人間のにおいを嗅ぎつけて、マウイに起こった声で誰だ、と尋ねると、マウイは自分がマウイであることを告げた。すると彼女は心をやわらげて孫の存在を確認し用事を尋ねた。マウイが太陽を懲らしめに行くつもりだと答えると、一本の魔法の棒をだしてくれた。
マウイは綱と棒をもって、東へと歩き太陽が下界から昇ってくるところに綱で罠を張っておいた。下界から現れた太陽は双の脚を罠に捕られて、身をもがきだした。それを見たマウイは物陰から飛び出してきて、手早く太陽を縛り上げて、大きな樹につないだ。そして魔法の棒を振り上げて、力任せに殴り続けたので、太陽は堪り兼ねて命乞いをした。マウイは太陽の脚が速すぎるのでもう少しゆっくり歩くなら許すと言った。太陽はゆっくり歩くことを誓ったので、マウイはやっと太陽を解き放ってやった。それ以来太陽は、今日のようにゆるゆると空を歩くようになった。(ハワイ)

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太陽を縛る話(その二)

マウイは、太陽が東から出て西に沈むまでの時間があまり短すぎると考えた。そこで兄たちに向かって太陽の足が速すぎるから縛り上げて、人間がいまよりもゆっくり食物の支度をできるようにしようと話した。兄たちは太陽は熱すぎて人間には近寄れないと言った。マウイは笑って、自分がこれまで行った業績を誇って自分にはなんでもできると答えた。
綱が出来上がると、マウイは兄たちと一緒に太陽の登るところまで旅をした。そして綱で罠をっ造り、兄たちに持たせ、太陽を脅かさないようにして、太陽が昇って来て、頭や肩を罠の中に差し込むまで隠れてマウイが声を掛けたら綱の端を引っ張るように言った。しばらくして、太陽が魂の塊のように現れて来て、マウイは太陽がその頭や肩を罠の中に差し込んだのを見すまして、綱を引くように叫んだ。兄たちは綱を引いて太陽を生け捕りにした。マウイは先祖の老女の顎の骨で作った武器で、散々に太陽を叩きのめして、ゆっくりあるかせるようにした。(ニュージーランド)

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爪の火盗み

マウイはお母さんと一緒に住んでいた。毎朝マウイが目を覚ましてみると、いつの間にかお母さんの姿が見えなくなっていた。
マウイは、お母さんの行方が知りたいと思い、夜お母さんが寝静まるのを待って、家にある隙間をすべてふさいで、少しも陽の眼が漏れぬようにした。それでお母さんは翌朝寝過ごして、そっと家を抜け出すところをマウイに見つけられてしまった。マウイはそっとお母さんの後について行った。
それとは知らずにお母さんは、芦や草を積み重ねた所に来ると、それをはねのけた。そしてそこにある穴を降って姿を消してしまった。マウイはたちまち一羽の鳥に姿を変えて、お母さんに続いて穴の中に降ると、下界に着いた。
下界にお母さんを見つけると、マウイはすぐに元の姿に返って、食べ物を強請った。お母さんは食べ物を煮る火がないため召使に火を取りにやるから待つようにと言った。マウイは火がどこにあるのかと尋ねた。お母さんはマウイの先祖のマフイケというう年寄りの火の持ち主だと言うことを教えた。マウイはマフイケの家に訪ねて行った。そして燃え木をくれるように頼むと、マフイケは手の指を一本切り落としてマウイに与えた。マフイケは手足の指に火を隠していた。
マウイは指を貰って彼女の家を出ると途中で水の流れに指を突っ込んで、火を消してしまい、引き返してきた。マフイケに火が消えてしまったので他の指をくれと言った。マフイケはまた一本の指を切って、マウイに渡した。しかし、マウイは幾度も指の火を消しては、他の指を貰いに行ったので、とうとうマフイケには足の指が一本だけ残ることになった。彼女もついに怒り出して、その指を切り取るなり、この世界に火をつけた。火はすさまじい勢いで燃え広がり、マウイは命からがら逃げだしたが、火は今にも世界中のあらゆるものを焼いてしまいそうになったためマウイも大慌てで、雨と雪と霰に助けてくれるように叫んだ。すると、たちまち雨や雪や霰が降り出して、火を消し止めてくれた。こうして世界はやっと燃えつくされないですんだ。(ニュージーランド)

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マウイと火造鳥

あるとき、マウイが三人の兄と一緒に魚を取りに行くと、ある浜辺に火が燃えているのを見つけた。人間世界には、それまで火と言うものがなかったので、マウイは大喜びで駆けつけると、その火は泥鶏どもがこしらえたのでしたが、彼らはマウイの姿を見ると、すぐに火を消して逃げ去った。
マウイは鳥どもをおびき寄せようと思って、三人の兄を舟に乗せて、沖合に出てもらい、自分だけ浜辺に隠れていたが、利口な鳥どもは舟の中の人数が一人だけ欠けているのを知って、どうしても火をこしらえようとしなかった。
マウイはそれを見て、今度は草をかき集めて、一つの人形を作り舟の中に立てて置いた。鳥どもは舟の中の人数が四人になったのを見て、安心して磯辺に火をこしらえかけた。そこでマウイは飛び出て一羽の泥鶏を捕まえて火の作り方を教えるように責め立てた。鳥はどうにかしてマウイを騙してやろうと思って、幾度も偽の作り方を教えたがマウイはそのたびに鳥の悪戯を見破って、早く本当の作り方を教えないと首を絞めると言って脅しつけた。泥鶏は仕方がないので、木と木を根気よくすり合わせるのだと教えた。マウイは泥鶏がたびたび自分を騙そうとしたのに腹を立てて、木と木をすり合わせる代わりに、泥鶏の頭と頭とをすり合わせて火を造った。それで今日でも、泥鶏の頭には赤い斑点がある。(ハワイ)

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鰻退治

あるときマウイの妻が、流れに水を汲みに行って彼女が流れの岸に立っていると、ツナというものが大きな鰻の姿をしてやって来て、いきなり尻尾で彼女を叩きつけた。そして彼女が不意を打たれて水の中に落ち込むと、ツナはこれを捕らえて、自分の側に引き付けておいた。これを知ると、マウイは非常に怒って、流れに大きな丸太を二本横たえておいた。そしてツナがそれを乗り越えようとするところを見すまして、これを殺した。いろんな木や草や魚や深淵の怪物などは、死んだツナの頭や体からできた。(ニュ―ジーランド)

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椰子の起源

イナという乙女が、いつもある池に水浴に行っていた。ある日、一匹の大きな鰻が現れて、イナの側に這い寄って、身体を擦り付けた。
イナは、変なことをする鰻だと思って、その日はそのまま帰って行ったが、それからは彼女が池に来るたびに、鰻が現れて、身体をすりつけるのだった。イナは何となくその鰻に親しみを感じるようになった。ある日鰻が出し抜けに凛々しい若者に変わって、イナに思いのたけを語った。
若者の名前はツナと言って、イナの恋人として、たびたび彼女を訪れるようになった。そして来るときには人間の姿をしているが、帰るときには鰻の姿に変わるのであった。
ある日ツナは悲しげな顔をして、別れる時が来たので、明日の大水に乗じて鰻の姿で最後の訪問に来るのでその時に自分の頭を切り落として、地に埋めて、日ごと眺めているように言った。これを聞くとイナはたいそうお驚き悲しんだが、ツナの言葉には、どうしても拒みがたい調子が含まれていたので、教わった通りにすることを誓った。
翌日、大雨が降って、ツナは鰻の姿をして、水を分けてイナの所に訪ねてきた。彼女は泣く泣くその頭を切り落として地に埋めた。そして日ごとそこに出かけていると、ツナの頭を埋めた所から緑の芽が生えて、だんだんと大きくなって、はては今まで見たこともない立派な樹になった。
これが椰子の始めであった。椰子の樹は、ツナの頭から生えだしたもので、今日でもその実の皮を剥いでみると、この男の顔や目がちゃんと現れている。(マンガイア)

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怪女の胎内潜り

あるときマウイがお父さんの国を訪れた。(自然民族の間では、母系主義の家族性を採っている所が多く、したがって子は母の国にいることを常とする)お父さんはマウイに向かって、お母さんの国ではいろいろな偉業を成し遂げたと聞いたが、この国ではうまくはいかず、打ち負かされると言った。マウイは笑って自分が打ち負かされるような仕事とはどのようなものかと尋ねた。お父さんは先祖のヒネ・ヌイ・テ・ポという女がいて、空と海とが一緒に出会っている所で、大きな口を開いたり閉じたりしているが、この女にはマウイは負けてしまうというのである。マウイは笑ってお父さんの話をばかげているといった。父は、マウイの身の上について心配事があると打ち明けた。それは、マウイに洗礼を施したとき、欠かしてはならないお祈りを省いたことを伝え、それが原因でマウイの身を亡ぼすことになるだろうと心配していると言うことを伝えた。これを聞くと、マウイは真面目な顔をして、ヒネ・ヌイ・テ・ポはどんな様子をしているのか尋ねた。父は遥か海のかなたを指して、ずっと無効に光っている真っ赤な物がヒネ・ヌイ・テ・ポの双の眼で、歯は火山岩のように堅くて鋭く、身体は人間と同じで、目の玉は碧玉で、髪の毛は長い下位層がもつれ合ったようで、歯はまるで魳(かます)の口そのままであり、マウイはこの怪物を征服しなくてはならないと伝え、もし制服することができたら、人間はいつまでも生き続けられるが、もし負けてしまうと、人間はいつかは死ななければならなくなるが、お父さんは今回ばかりはマウイが負けそうな気がすると言った。
マウイはこれを聞くと、眼を輝かして、ヒネ・ヌイ・テ・ポが、人間や、大地や海までも滅ぼし尽くそうとしてしていたタマ・ヌイ・イテ・ラ(太陽の名)よりも強いと思うか、また、マウイはそのタマ・ヌイ・イテ・ラですら自分の手で縛り上げて、自分の言うことを聞かせたのだからヒネ・ヌイ・テ・ポなんか恐れるにたらないと言った。お父さんはこの勇ましい言葉を聞いても、お父さんは、自分が大切なお祈りを除いたことが気になるので、どうか勇敢にヒネ・ヌイ・テ・ポと戦ってくれと励ましただけだった。
マウイは海の怪女を退治するために仲間を募ることにした。そこで、駒鳥やつぐみ、ほおじろや鶺鴒などが集まってきたので、それらを引き連れて、日の暮れにヒネ・ヌイ・テ・ポを征服しに出かけた。そして、彼女の住居にやってくると、彼女はぐっすり眠っていた。マウイは多くの鳥に向かって、自分が怪女の口から、体内に這い込むのを見ても、決して笑ってはいけない、これだけはきっと守ってほしい、そして自分がまた口から現れてきたら、その時こそ思う存分に大きな声で笑ってくれと話した。
怪女の物凄い姿におびえ切った鳥どもは、ひどくマウイの身の上を心配して怪女の体の中に這いこむなんて命がなくなるでしょうと言った。マウイは怪物の体に這いこんですぐに笑い出したら女が目を覚まして、立ちどころに殺すに違いないが、自分が口から出かかるまでは笑わないでくれたら、自分は助かりヒネ・ヌイ・テ・ポが死ぬのだと、それをよく承知しておくように言った。鳥は気を付けるようにと一斉に答えた。
マウイは、武器の紐をしかと自分の手首に巻き付けて、衣を脱ぎ捨てた。腰から尻にかけて、施した入れ墨が、鯖の膚(はだ)のように美しく見えた。こうして彼は裸で怪女の体の中に這い込み始めた。その様子が可笑しくて堪らなかった。マウイの厳しい言葉があるので、鳥どもは双の頬をつぼめて、一生懸命に笑うまいと努めた。しかし、イワカワという小鳥だけは、どうにも我慢が出来なくなって、声高く笑い出した。その声に怪女が眠りから覚めて、くわっと大きな目を見開いた。英雄児マウイは、彼女の口の中であえなく命を落としてしまった。こうしてマウイが解除の体をくぐり抜け損じたので、人間はいつかは死なねばならぬようになった。(ニュージーランド)

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両親探し

天界にウハイタリ(雷霆)という女神が住んでいた。ウハイタリは人間の肉を自分の食べ物としていた。あるとき、ウハイタリは、人間にカイ・タンガタ(人間を食うもの)という名で知られている一人の男がいることを聞き込んだ。ウハイタリは人食いという名がついているからは、人間の肉が好きなんだろうと、嬉しい男だと思って、この男と結婚することにした。こうしてウハイタリは人間界に降ってくると、一人の奴隷を殺して、血なまぐさい心臓をカイ・タンガタへ贈り物として持っていくとカイ・タンガタは、火のように怒りだして、自分が人食いと呼ばれるのは人並勝れて勇敢であるためで人間の肉を食うためではないからいらないと言った。これを聞くとウハイタリ女神はがっかりしたが、それでもカイ・タンガタと結婚をして、数人の子供を産んだ。ウハイタリはその後も人肉をたべることを止めず、女神は毎日人間を殺しているうちに、夫の親類までも手に掛けた。カイ・タンガタはそんなことには気が付かないので、親類の骨で釣り針をこしらえて、魚を釣りに出かけた。そして連れた魚をウハイタリに食べさせると、天罰覿面、女神は盲目になってしまった。女神は人間界に留まっているのが嫌になって、雲に乗って天界に帰ってしまった。
鵜は至りが産んだ子の一人にヘマという男がいた。ヘマは妻を娶って、タウハキとカリヒという二人の子をもうけた。
あるとき悪い精霊どもがヘマの妻をどこともなく連れ去った。ヘマは非常に怒って、精霊の後を追っかけたが、かえって彼らのために殺されてしまった。凛々しい若者に生い立ったタウハキは、精霊どもに連れ去られた母を尋ねて、永い間あちらこちらと歩き廻っていた。彼はとうとう遠い国で自分の母を見つけ出した。彼女は、精霊どもの住んでいる大きな家の外側に番をしていて、夜が明けるたびに彼らを呼び覚ます役を振られていた。タウハキは、母と相談して、ひそかに大きな家に忍び込み、精霊どもが眠ったのを見すまして、母と一緒に家の中の隙間をすべてふさいだ。それで夜が明けても日の光がちっとも差し込まなかったので、精霊どもは、いつまでも高鼾(たかいびき)で眠っていた。タウハキは真昼になるのを待って、出し抜けに戸を開けた。精霊どもは驚いて跳ね起きたが、赫々(かくかく)たる陽の光に眼が眩んで、まごまごしているだけだった。多雨は気は物陰から踊り出して、片っ端から精霊どもを殺してしまった。
首尾よく母を救ったタウハキは今度は弟のカリヒと一緒に、父なるヘマを探しに出かけた。二人は丸木舟に乗り込んで、海を越えて、とある国に着いた。そこには盲目の老女が忙しそうに幾籠かの芋を数えていた。タウハキは彼女を一目見ると、お祖母さんのウハイタリだと悟り、少しからかってやろうと、老女が並べている芋を片っ端から隠した。盲目のウハイタリは、芋盗人をとって抑えようと思って、しきりにあたりを嗅ぎまわった。タウハキはにやにや笑いそれを眺めていたが、彼女の側に来て、自分がウハイタリの孫のタウハキだと名乗った。老女は折角孫が訪ねてきたのに、その顔が見えないので悲しがった。するとタウハキが目を開いてやると言って、唾と粘土とを混ぜて、それをウハイタリの目に塗ると、たちまちよくみえるようになった。タウハキはウハイタリに天界へ昇る手段を訊ねた。お祖母さんは天界に昇る手段は、天界から大地に垂れ下がっている蜘蛛の糸を見つけて、それを伝っていくほかないと教えた。タウハキは弟のカリヒと一緒に蜘蛛の糸を探し回った。そしてそれが見つかると、カリヒを先にして、自分はその後からだんだんと空に昇って行った。と、俄に激しい風が吹きおこり、蜘蛛の糸がひどく揺れたかと思うと、カリヒが吹き飛ばされて、あっと言う間もなく真っ逆さまに大地に落ちて、死んでしまった。タウハキは弟の死を悲しみながら、用心に用心をして昇って行くとようやく天界に着いた。しかし、天界にいた一人の老女の話によると、父のヘマは精霊のために殺されてしまったということだった。これを聞いたタウハキはいままでの苦心も水の泡と、ひどくがっかりしたが、折角ここまで来たのだから、何か人間たちに良い土産をもって帰りたいと思って、神様から非常に効き目のある呪文を教わって、それから初めて人間界に帰って来た。(マオリ族)

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巨人退治

タウハキの子ワヒエロアの妻がお産が近づき夫に向かって、ある珍しい食べ物を注文した。それは本当に珍しい食べ物で、遠い国でなくては、見いだされないものだった。ワヒエロアは、妻を愛する心から、その食べ物を手に入れるために、遠い国に旅だった。その国には、マツクと呼ばれた巨人が住んでいて、旅人を捕らえては、自分の食べ物にしていた。そして不幸にも、ワヒエロアはこの巨人のために殺されてしまった。
夫を亡くした女は、悲しみの内に子を産み落とした。彼女はその子にラタという名をつけて大切に育て上げた。ラタはは年を取るにつれて、父親の姿が見えないのが気になりだし、母に父の所在を尋ねた。母は悲しな様子で父が遠い国でマツクという人食い巨人に殺されたことを話した。これを聞くとラタは非常に口惜しがって、ぜひとも敵討ちをしなくてはならぬと決心した。そこで、遠い国に乗り出す準備として丸木舟を作ることにした。彼は大きな樹を伐り倒し、翌日仕事を続けようと出かけると伐り倒した樹が、元の通りに立っているばかりでなく、かすり傷一つついていなかった。ラタは非常に驚き怪しみ再びそれを伐り倒した。しかし翌日になると、やはりちゃんと突っ立っていた。ラタは誰かが仕事の邪魔をしていると、その者を捕らえようと思って、三度めに樹を倒すと、家には帰らないで、物陰に隠れていた。すると、間もなく
タネの森を倒すは
ラタ、そなたぞよ
タネの木屑よ、こなたに飛んで
元の如く癒え着けよ
さなりまっすぐに立て
緑に、すがすがしく立て
という声が、どこからとなく聞こえてきた。すると、四方に落ち散っていた木片が、たちまち動き出して、樹の切り口に癒え着いて、やがて樹はおのずと立ち上がった。これをみたラタは、森の精どもが悪戯をしていると悟った。そこで大きな声で森の精に呼び掛けて、悪戯を辞めてくれるように言った。するとまたどこからとなく声がして、ラタが仕事を始める前に適当な犠牲を供えて、適当な呪文を唱えなくてはならないこと、それをしないから舟が出来ないことを伝えた。
しかし、森の精たちは、親の仇を討とうと言うラタの志を憐れんで、彼の過ちを赦してやるだけでなく、代わりに夜の内に舟を作り上げてくれると言った。これを聞いたラタは喜んで家に帰った。そして夜の明けるのを待ちかねるようにして家を出ると、立派な丸木舟が戸口の所に横たわっていた。
ラタは、数人の従者と一緒にその舟に乗り込むと、永い間海の上をこぎ続けていると、一つの島に着いた。この島に住んでいた人食い巨人はラタの一行を一飲みにしようとしたが、その途端、ラタが魔術の力で、従者たちの数を殖やして、浜辺を蔽いつくすほどにしたので、巨人は目を白黒してあきれていた。巨人は手を変えて、ラタの一行を我が家に招待した。そして言葉巧みに蓆の上に座らせようとしたが、ラタは早くも蓆(むしろ)の下が恐ろしい罠になっているのを見破って、その手に乗らなかった。巨人が出したいろんなご馳走を食べた後で、ラタは、冷たい水を求めた。巨人は水を汲みに行ったが、ラタが魔術で水を隠してしまったので、巨人は長い間あちこち探した後疲れ切って、冷え切って空手で帰ってきた。そして、身体が温まって元気が出る食べ物はないかとつぶやくと、ラタはこれを食べるとよいと言って、巨人が出かけていた留守に、炉の中で真っ赤に焼いておいた石をその口に押し込んだので、巨人はアッと一声叫んだまま死んでしまった。
巨人の首領マツクは、これを聞くと、驚き恐れて、大地の下の洞穴に引きこもったまま、どうしても出てこなかった。しかしマツクこそラタの父親を殺した当人であるので、ラタは是が非でも子rを倒さねばならないと思った。そこで、洞穴の入口に罠をしかけて、その前に非常に旨い食べ物を堆く積み上げた。幾日か穴の中に閉じ籠って、美味しいものを口にしなかったまマツクは、堪り兼ねて洞穴の奥から出てきた。そして食べ物を摑み取ろうとした途端、罠にかかってしまった。ラタはマツクを殺して、首尾よく父の仇を取ることができた。そして父の骨を集めて、自分の国に帰ってきた。(マオリ族)

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人食いの最期

ハウメアという女神が、大地の下の世界からやって来たロオ・ヌイという者と結婚した。二人の間にはツツレという子が生まれた。しかし、後で二人が激しい喧嘩をした末に、ロオ・ヌイは妻子を捨てて、大地の下の世界に帰ってしまった。女神のハウメアはひどくそれを怒り恨んで、人間の肉を食うようになった。それを見ると、ツツレは母親が怖くて堪らなくなり、うかうかしていると自分まで食べられてしまうと思って、ひそかに一隻の魔船をこしらえ、逃げるために水汲み用の瓢(ふくべ)にいくつもの小さな穴をあけて、ハウメアに水を汲みに行かせた。ハウメアは、満々と組んで来た水が、途中でなくなってしまったのを怪しんで、よく瓢を調べてみると、たくさん穴が開いていた。ハウメアはツツレが自分を騙したとわかると、急いで海端に駆けつけたが、ツツレはもはや海の上に舟をこぎ出していた。ハウメアは海に飛び込むと、ぐんぐん泳いで追いつくと大口を開いて、舟もろともツツレを飲み込もうとした一刹那、ツツレが真っ赤に焼いた石をその口に投げ込んだので、彼女は悲鳴を上げて、息が絶えてしまった。しかし、ハウメアは本当に死んだのではなかった。磯辺に流れよると、やがて息を吹き返して、ノナと名を変えて、やはり人肉を食べ続けていた。ハウメアはやがて女の子を産んだ。その女が大きくなると、恋人をこしらえたが、母に喰われるのを恐れて、いつも洞穴に隠しておいた。洞穴は魔法の言葉を唱えなくては、決して開かないようになっていた。ハウメアはすぐに娘の秘密を悟って、洞穴の所に行って、魔法の言葉を唱えて、中に潜んでいた男を殺してしまった。しかし彼女は腹立たしさのあまり、自分の娘までも殺して食べようと決心した。娘は早くもそれを悟って、寝床の中に一本の丸太を横たえて、自分はそっと家から抜け出した。かくとも知らないハウメアは、夜になって、そっと娘の寝床に忍びよりましたが、娘はいなくて、丸太がごろりと横たわっているのを見ると、歯噛みをして後を追っかけた。娘は絶体絶命になって、一人の老女の家に逃げ込んだ。老女は彼女の身の上を哀れんで、追いかけてきたハウメアを殺してやった。こうして恐ろしい食人鬼がやっと取り除かれた。(タヒチ)

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魚の王の妻

あるときヒナという女が、両親から、家に伝わっている貴い装飾品の番をするように言い遣った。ナンガという大盗人が、その装飾品に眼をつけて、どうにかして盗み出そうと思った。彼はヒナのいる所に忍び込んで、言葉巧みにその機嫌をとった後で、ヒナの所に素晴らしい装飾品があると聞いたので、すこしで良いから自分の体にそれを着けて見させてほしいと言った。ヒナはうっかりその言葉にのって、装飾品を出してやった。ナンガはそれを身に付けて、しきりにその美しさを褒めたたえていたが、やがてヒナの油断を見すますと、いきなり家の中から飛び出してしまった。ヒナはひどく驚き悲しんだが、どうすることもできなかった。そのうちに両親が帰ってきた。二人は装飾品を盗まれたと聞くと、ひどく腹を立てて、ヒナを叱ったり殴ったりした。ヒナは堪り兼ねて、家から抜け出した。そして、彷徨い歩いているうちに海端に出た。ヒナは飛ぶ鳥でない身では海を越えることが出来ず困ってしまった。彼女は仕方がないので大きな声で、魚に助けを求めた。するといろんな魚がその声に応じて水の面に浮かび出した。そして自分が魚の王チニラウのいる島につれて行くと言った。しかし、彼女を背に乗せる時になると、どの魚もあまり小さくて、とても背負いきれず、ヒナはどうしたらいいだろうと思っていると、最後に一匹の鮫が現れて、彼女を背の上に乗せてくれた。
漫々たる水をきって、鮫が泳ぎ出すと、ヒナは、途中で食べたり飲んだりするためにもって来た二つの椰子の実をとりだして、殻を割るために、その一つを鮫の頭に打ちつけた。鮫はいきなり頭を殴られたので、ひどく腹を立てて、突然波の下にもぐり込んでしまった。鮫の背から放り出されたヒナは、波にもまれてたいそうもがき苦しんでいた。と、すべての鮫の内で、一番大きなのが、それを見つけて助けにやってきた。ヒナはその鮫の背に乗って、無事に魚族の王チニラウの館に着いた。しかし、チニラウは、あいにくどこかに出ていたためヒナが困っていると館の中に大きな太鼓があるのが目に付いた。彼女は力任せにそれをたたいた。すると遠くにいたチニラウがその音を聞きつけ、自分の留守に太鼓をたたくのは誰だろうと大急ぎで館に帰ってきた。すると、思いがけもなく、美しい乙女が訪ねてきていたので、大喜びでヒナを自分の妻にした。
ヒナの弟にルペという若者がいた。彼はヒナが両親に叱られて家でをしたのを悲しんで、彼女を探しに出かけた。そしてあちらこちらと歩き廻っているうちに、彼女が、魚の王の館にいると言うことを耳にした。しかもその館は、遠い海の彼方にある以上、どうにかしなくては渡れそうになかった。ルペはいろいろと考えた末に、わが身を小さくして空飛ぶ鳥の体の中に入り込んだ。そして魚の王の館のある島まで一気に飛んで行ってみると、懐かしい姉は、魚の王の妃になっていた。
ルペは非常に喜んで、すぐに自分の国に飛びかえって、両親にヒナの身の上を話した。すると両親もヒナに会いたがったので、今度は三人がうち連れて、舟で魚の王の館のある島に渡って行った。(マンガイア)

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冥府の入れ墨

ある日マタオラという男が、自分の家で眠っていると、大地の下の世界に住んでいる者ども(彼らはツレフと呼ばれている)がそこにやってきた。大地の下の世界は冥府であった。そしてツレフは死人の霊であるから、生きた人間を見ると、ひどく珍しく感じたと見えて眠っているマタオラを眺めながら、いろんなことを話し合っていた。すると、その声にマタオラが目を覚まして、食べ物を出して、ツレフたちに勧めた。すると彼らは、それを辞退して、自分たちは料理したものは食べたくない、冥府では料理しないものだけを食うことになっているといった。そこで生の魚を勧めるとツレフたちは喜んでそれを食べて、みんな一緒になって踊り始めた。ツレフのうちに、ヌヴァラフという女がいた。非常に麗しい容貌をしていたのでマタオラはすぐに恋心を起こして、自分の嫁となって人間界に留まるように言うと女はそれに同意してくれた。二人は夫婦となって、仲良く暮らしていたが、マタオラの弟が、兄に向ってしきりにヌヴァラフの美しいことを誉め立てていたので、やがてマタオラの胸に妬み心が湧いてきた。それである日、なんでもないことから夫婦の間に争いが起こって、はてはマタオラが妻をさんざん殴りつけた。ヌヴァラフは腹を立てて、夫を捨てて、大地の下の世界に帰ってしまった。
マタオラは、愛しい妻がいなくなったのを悲しんで、冥府に旅立つことにしました。いろんな人に道を尋ねて、永い間とぼとぼと歩き続けているうちに、とうとう冥府の入口に着いた。入口を通って、そこに番をしている者に、ヌヴァラフが通らなかったか尋ねると相手はひどく泣きじゃくりながら通って行ったことを教えた。これを聞くとマタオラは急いで冥府に降って行った。そしてあちらこちらと尋ね巡っていると、死んだ舅(しゅうと)のウエトンガが住んでいる村に来た。
その村の死人たちは、マタオラの顔を見ると、みんな嘲るように笑い出した。マタオラは不審に思って、なぜ自分の顔を見て笑うのか尋ねると死人たちはマタオラが顔を彩っているだけだからすぐに消えてしまうことを笑っているのだと答え、双の手でマタオラの顔を強く撫でると、せっかく美しく彩っていた模様が、すっかり消えてしまった。マタオラはなるほどと思ってしょげかえっていると、死人たちは得意になって、人間界では顔を彩ることしか知らないが、冥府には入れ墨という術があって、いったん顔に模様を入れると、いつまでも消えないと言った。マタオラは羨ましがって誰がその術を知っているのかと尋ねると、死人たちはからから笑ってマタオラの舅ウエトンガであることとその家を教えた。
マタオラはすぐにウエトンガの家を訪れて、入れ墨をしておくれと頼んだ。ウエトンガは承知して、すぐにマタオラの顔に模様を彫り始めた。顔を塗るのではなく顔の肉を刻むのでひどく痛んだ。マタオラはその痛みを紛らわすために、歌を歌っていた。丁度そのとき冥府に逃げ帰ったヌヴァラフが、近くで蓆(むしろ)を織っていた。彼女は歌声を耳にすると、すぐに自分の夫であることを悟ったので、マタオラの側にやって来て、入れ墨が済むまでいろいろと世話をした。こうして二人はまた仲良くなったが、しばらくすると、マタオラは人間界に帰りたくてたまらぬようになった。それでヌヴァラフにもう一度人間界で一緒に住むことにしてほしいと頼んだ。彼女は始めはなかなか承知してくれなかったが、後で夫の言葉に従うことになった。二人が人間界に出る口まで来ると、チワイワカという鳥に出会った。鳥は、二人にどこへ行くのか尋ね、二人は人間界に行くところだと答えた。するとチワイワカは人間界には今悪いことばかり行われているから夏まで待ってそれからいった方がいいと伝えた。二人はその言葉の通りに従うことにした。夏になると、二人は冥府を旅立ち、そして冥府と人間界との境にある戸の所までやってくると、戸の番人が、ヌヴァラフが冥府でこしらえた神聖な衣を持ち出そうとしたのを見とがめった。番人は神聖な衣を置いていかねば二人を人間界に出すわけにはいかないと言うので、ヌヴァラフは余儀なくその言葉に従った。二人が人間界に出ると、番人は戸を開けておくと、油断がならないと言って堅く戸を閉めた。だからその後は、生きた人間は冥府に行かれなくなってしまった。(ニュージーランド)

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生死の誓い

大昔、大地が初めてできた後で、タネ神が配偶が欲しくなった。そこで土をこねて一人の女を作って、それに生命を授けて、自分の妻とした。二人の間にヒネ・イ・タウ・イラという女の子が生まれたが、タネ神はヒネが大きくなるのを待って、これも自分の妻とした。ヒネは、ある日タネ神に向かって、自分が夫であるタネ神はいるがお父さんがいないのはどうしてかと尋ねると、タネ神は自分がヒネの父親であると答えた。これを聞くと、ヒネは非常に恥ずかしく思って、自殺をしてしまった。そして大地の下の世界に降って、偉大なる夜の女神ヒネ・ヌイ・テ・ポとなった。タネ神は、ヒネがいなくなったのを悲しんで、冥府へ探しに行くことにした。彼はヒネが住んでいる家について、頻りにその戸を叩いたが、ヒネはどうしても家に入れてくれなかった。タネ神はそとから、どうか一緒に上界に帰るように頼んだが、ヒネはそれを拒んで、「あなたは一人で上界に帰って、陽の光で人間を殖やし育てなさい。私は冥府に留まって、人間を暗と死とに引き込みますから」と答えた。タネ神は嘆きの息をつきながら、冥府を離れた。(ニュージーランド)

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冥府への墜落

エネエネという男の妻クラが大きな樹に登って、香りのいい花を摘んでいると、足を駆けていた枝が折れて、真っ逆さまに大地に落ちた。途端に大地が二つに裂けたので、クラは暗闇の中を下へ下へと落ちて行って、とうとう冥府に入ってしまった。冥府の者どもは、彼女を見るとゆっくりと食べることにして、ある家の柱にしばりつけて、盲目の老人に番をさせておいた。老人は絶えず女の名を呼び、その返答によって、逃げ出さないことを確かめていた。
夫のエネエネは急に妻が見えなくなったので、変に思って、あちこちと探し回っているうちに、冥府に落ち込んだことを知った。彼はすぐに冥府に入り込んだ。しかし妻がどこにいるか、さっぱりわからなかったので、足に任せて歩き廻っていると、どこからとなく、クラを呼ぶ声が聞こえてきた。続いて、クラが答える声が聞こえてきた。エネエネは飛び立たんばかりに喜んで、足音を忍ばせて、声のする方に歩み寄ると、一軒の家の柱に自分の妻がしばりつけられていて、その傍に盲目の老人が番をしていた。エネエネは助けてやると独り言を言うと、音のしないように椰子の樹によじ登って、たくさんの実を摘み取った。そして目指す家へ行く八筋の道に果実をまき散らすと、鼠どもがすぐにその匂いを嗅ぎつけて、雲霞のように夥しく群がって来て、大騒ぎをし始めた。これなら音を立てても悟られることはないと、エネエネは、目指す家の屋根を壊して、中に入り込んだ。そしてそっと妻の戒めの綱を断ち切って、彼女の耳に口を寄せて、自分がクラに代わって返答をしているから、お前は一刻も早く上界に逃げ出すように囁いた。妻は大喜びで、すぐに足音を忍ばせて逃げ出した。盲目の悲しさに、万人は少しもそれに気が付かないで、相変わらず、クラの名前を呼び続けている。そのたびにエネエネはできるだけうまく妻の声音を真似して、返事をしていた。そのうちにかなり時がたったので、エネエネは大丈夫だと思って、いきなり家から飛び出した。そして間もなく妻に追いついて、一緒に人間界に帰った。(マンガイア)

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椰子の殻に詰めた霊魂

あるところにヒクという若者がいた。ヒクの母は、人里離れた山の中で彼を育て上げたので、彼はよい若者になるまで、母より他の人間を見たことがなかった。
しかし、この若者にも、とうとう人里に出てみたいという気が起こってきた。母は別れを悲しんでときどきは帰って来て顔を見せてくれと言った。ヒクは手慣れた弓に魔法の矢をつがえて、人里の方にきって放った。そして屋の落ちた所にたどり着いては、また、先の方に射放つのだった。こうして飛んで行く矢に導かれて歩いているうちに、矢はとある村に住んでいる一人の麗しい乙女の足元に落ちた。
カウェルと呼ばれたその乙女は、矢を拾い上げると、手早くそれを隠した。ヒクは落ちたと思うところに矢が見えないので、乙女に、矢が落ちていなかったか尋ねた。乙女はわざと知らないふりをした。ヒクは割って声高に矢を呼ぶと矢が返事をしたので、すぐに隠してあるところがわかった。こうして、ヒクとカウェルとは仲良く唸って、とうとう夫婦になった。ヒクはその村に暫く暮らしているうちに、ある日、母の言葉を思い出し、妻に母に会いに行くと言うと、妻は大層悲しがって、しきりに引き留めた。しかし、夫がどうしても聞き入れる様子がないのでとうとうヒクを一間に閉じ込めたが、ヒクは妻の油断を見すまして、母の許に行ってしまった。
愛人に取り残されたカウェルは 、寂しさと悲しさとのあまり、重い病に罹った。山の中にいて、その便りを聞いたヒクは、大急ぎで村に帰ってきた。しかしもう遅い。ヒクが妻の許にやって来たときには、彼女は冷たい屍となっていた。村の人たちはヒクを恨んで、カウェルを殺したようなものだ、乙女の一命をどうしてくれると責め立てた。ヒクは悲しくて心苦しくて堪らないので、カウェルの霊魂を冥府から連れ帰ろうと決心した。彼は村の人たちに加勢をしてもらって、長い長い綱をこしらえた。それから体中に嫌な臭いのする油を塗って、空洞になった椰子の実と長い綱とをもって、冥府へと旅立った。
人間界から冥府に通ずる深い穴の所に来ると、長い綱を垂らして、それを伝って冥府に降りて行った。冥府の者どもは、生きた人間がやってきたと思って、みんなその場に集まってきたが、嫌ににおいがするので、死人だと言って一人も咎めなかった。冥府の王ミルでさえもだまされて、なんとも言わなかった。ヒクは人間界から垂れ下がっている長い綱の端につかまって、さも面白そうに揺れた。死人たちはそれを見ると、面白がって自分もやりたいといって、みんながかわるがわる綱に捕まって、ぶらんこをした。すると、ヒクの妻カウェルも堪り兼ねて、そこに駆け寄ってきた。そして夫に声をかけて、自分も揺れてみたいと言った。しすましたとヒクは妻と一緒に綱の端にぶら下がると二人で余念なく揺れているうちに、ヒクが綱を引っ張ると、人間界で刺させていた人々は、合図があった、引き上げろと叫ぶと綱を手繰った。ヒクとカウェルはみるみる上の方に昇って行き、冥府の者どもは、騙されたと思って、大騒ぎをしたが、どうしようもなくただ上を向いて、巧く騙したと言って罵るだけだった。
カウェルは、夫の計略に気が付くと、たちまち蝶に姿を変えて逃げ出そうとしたが、ヒクは素早く蝶を捕まえて、持って来た椰子の殻に放り込み、そのうちに綱が手繰りつくされて、人間界に達したので、ヒクはすぐにかうぇるの亡骸の側に駆けよって、左足の親指に孔を開けて、嫌がるカウェルの亡骸のそばに駆け寄って、左足の親指に孔を開けて、嫌がるカウェルの霊魂をそこから体の中に押し込んだ。と思うと、亡骸が急に動き出して、やがてカウェルが生き返った。(ハワイ)

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腹を裂くお産(その一)

ツラという男が、遠い国を旅して、その国の女と結婚した。女が身重になって、お産をするときになると、親類たちが、銘々黒曜石でできた小刀を手にして訪ねてきた。ツラは変に思って小刀をどうするのかと尋ねると、親類たちも解せない顔で、妻がお腹が大きくなったので小刀でお腹を裂いて、子供を取り出すのだと答えた。ツラは驚いて、損hなことをしたら妻が死んでしまうと言った。親類たちは、当たり前だと言うような顔をして、そうしなくては子供が生まれないから当然だと答えた。ツラはびっくりして、小刀で切らなくても子供が生まれれると言うと、親類たちは驚き怪しみ、お腹を切り裂かないで子供が生まれるとすれば、これに増したことはないと言った。ツラは妻のために産屋を作り、彼女をその中に入れった。するとまもなく無事に子供が生まれた。(マオリ族)

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腹を裂くお産(その二)

ある村の近くに、一つの泉があった。新月の時になると、いつも大地の下の世界から、一人の男と一人の女とが、その泉を抜けて人間界に現れてきた。そして、人々の畑からいろんなものを盗んでは、自分たちの世界に持って帰って、生のまま食べるのであった。
村の人たちは、畑の穀物がなくなるのを怪しんで、どうかして盗人を捕らえようと決心し、泉に網を張っておくと、下界から現れた二人がそれに引っかかった。そして男の方はつらくも逃げ出したが、女は捕まってしまった。下界の女は大変美しかったので、村の長がもらい受けて、自分の妻にした。しばらくすると、女は身重になった。村の長は、それに気が付いて、いろいろお産の時の用意をしていると、ある日妻が、自分のお腹を切り裂くように頼んだ。村の長は飛び上がるほど驚いて、一体何のためにそんなバカげたことをするのかと尋ねた。女は澄まして、子供が生まれるのでお腹を裂かなくては子供の出るところがない、下界ではそうする風習だと答えた。村の長はこれを聞くと、下界ではそんなことをするのかと笑い出し、人間界ではお腹を切り開かなくても立派に子供が生まれると教えた。そしてこの女もその言葉の通りになった。(ラロトンガ)

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不貞な妻

あるとき、ツ・テ・コロ・フンガという男が、タマ・ヌイ・ア・ランギと言う男の所に訪ねて行った。そして暫くそこにとどまっているうちに、タマ・ヌイ・ア・ランギの妻ルク・チアと仲良くなって、とうとう二人で逃げ出してしまった。タマ・ヌイ・ア・ランギは火のように怒って、二人を探し出すために、鶴に姿を変えて、あちらこちらと飛び回っているうちに、見知らない国で罠にかかってしまった。彼は大いに驚いて、元の人間の姿に返って、自分を捕らえた人々に向かって、教わりたいことがある、私たちの顔の模様は水浴する度に消えてしまうのに、国の人々はいつまでもきれいな模様のままだからその術が知りたいと言ったl。これを聞くと人々は自分の先祖の所へ行くようにといった。そこで、タマ・ヌイ・ア・ランギはすぐに先祖の所に訪ねて行って、いつまでも消えない模様を書いてくださいと頼むと、先祖の人は承知して、タマ・ヌイ・ア・ランギの顔の肉を刻んで見事な模様を入れてくれた。タマ・ヌイ・ア・ランギは立派な男になったと勇んで、妻を探しまわった。そうしているうちに、とうとう妻の居所がわかったので、彼は汚い衣をまとった老人に姿を変えて、その家に入り込んだが、そこに集まっていた人々は、彼が見すぼらしい姿をしているので、気にも留めなかった。しばらくすると、人々は舞踏を踊り始めた。夫を裏切ったルク・チアも立ち上がって踊り出したが、タマ・ヌイ・ア・ランギがひそかに呪文を唱えていたので、彼女の目から絶えず涙が流れて、どうしても踊り続けることが出来なかった。ルク・チアはどうしたのだろうと、自分ながら不思議で堪らなかった。
タマ・ヌイ・ア・ランギは、人目に付かないところで、変装をかなぐり捨てて、ルク・チアに合った。彼女は、夫が知らぬ間に見違えるほど立派な容貌になっているのにびっくりした。彼女はツ・テ・コロ・フンガと一緒に夫の家を抜け出したものの、近頃は絶えずツ・テ・コロ・フンガに殴られてばかりいた。だから立派な男ぶりになった夫を見ると、自分の悪さを認めどうか一緒に家へ連れて帰ってくれるよう頼んだ。タマ・ヌイ・ア・ランギは、心の中では彼女が憎くて堪らなかったが、わざと顔色をやわらげて、自分と一緒に帰りたいなら、高いところに登って、夜が明けるや否や
おお陽の光よ、月の光よ
わが夫(つま)の丸木舟の行手を照らせ
と歌うように言った。そしてすぐにルク・チアの所を立ち退いて、自分の家に帰るなり、人々を集めて、また舟で彼女の住んでいる島に漕ぎ寄せた。そのとき、ちょうど夜が明け離れたので、ルク・チアは、タマ・ヌイ・ア・ランギに教わった通りに、高い所に登って、
おお陽の光よ、月の光よ
わが夫の丸木舟の
行手を照らせ
と歌った。タマ・ヌイ・ア・ランギは彼女に声をかけて、早く海へ飛び込んで舟まで泳いでくるように言った。騙されるとは知らないで、ルク・チアは大急ぎで海に飛び込んで、タマ・ヌイ・ア・ランギの舟をめがけて泳ぎ出した。彼女が船べりに知覚泳ぎよると、タマ・ヌイ・ア・ランギはいきなり頭髪を摑んで、夫に煮え湯を飲ました悪戯女、思い知れと叫ぶと斧を振るって、彼女の首を切り落とした。彼は妻の首を丁寧に包んで、我が家に持って帰って、地に埋めた。彼は復讐の念に駆られて、妻を殺したものの、殺してみると、寂しくて悲しくて堪らなかった。それで、毎日のように彼女の首を埋めた所で妻を思う歌を歌っていた。
そのうち春がきて、樹という樹がみんな花を咲かせた。と、ルク・チアの首の埋まっている所から、蠅の羽音のようなかすかな響きが聞こえてきた。タマ・ヌイ・ア・ランギは変に思って、首を埋めた所を掘り返すと、彼の妻がいつの間にか生き返って、きちんと座り込んでいた。
二人は、お互いのしたことを許し合って、新たに楽しい生活に入った(マオリ族)

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鯨の乗物

チニラウとヒネとは、初めのうちは仲のいい夫婦だったが暫くすると、チニラウはヒネに空きが来て、他の女と仲良くなって、いつもその女の家に行っていた。そのうちにヒネは子供を産むときが近づいて来たので夫の許に使いを遣って、子供が生まれそうだから産屋と食べ物を与えてほしいと頼んだ。チニラウはすぐに帰って来て、ヒネのために産屋をこしらえてやったが、彼女が産屋に入ると、そのまままた他の女の所のに去って行った。
ヒネは夫の仕打ちをひどく悲しく思い、子供が生まれると、大きな声で弟のルペをよび、ルペはその声を聞くと、すぐに鳩の姿をして産屋に飛んできた。そして、ヒネから今までのことを聞くと大層彼女に同情して、赤ん坊もろとも自分の背に乗せて、大空に舞い上がった。それを見たチニラウは驚き悲しんで、自分が悪かったと言って側に戻るように頼んだ。ヒネはその言葉に従わなかったが、夫の悲しみを見ると、さすがに哀れに思って鳩の背の上から赤ん坊をおとした。チニラウは大変喜んでツ・フルフルという名をつけて、赤ん坊を大切に育て上げた。
ツ・フルフルは立派な少年になった。そして同じ年恰好の子供と一緒になって、いろんな遊戯をする場合、いつも一番うまくやるのだった。他の子供たちはひどく口惜しがって、母無し子と言って彼を嘲った。ツ・フルフルは気を悪くして、チニラウに自分のお母さんはどこにいるのかと幾度となく尋ねるので、チニラウは始めの内は、何かと言葉を濁していたが、あまり熱心に尋ねられるのでとうとう本当のことを打ち明けた。すると、ツ・フルフルは、お母さんが可哀想だ、自分がお母さんを探し出すと言った。チニラウはその意気込みを見て探しに行くのを許し、身体に煤(すす)を塗って、奴隷に姿を変えるように、またルペに水を飲ませるように言いつけられたら、花に水をかけるように、それからお母さんが踊りを踊るようなことがあったら、同じ歌を繰り返すようにと教えた。
ツ・フルフルは父と別れて旅に出かけた。そして、母のヒネと叔父のルペとが住んでいる家を探しだすと、言葉巧みに奴隷に雇ってくれと頼んだ。体を真っ黒に塗っていたので、ヒネもルペも彼の素性を見破ることが出来ず、そのまま奴隷に雇った。しばらくすると、ルペが水を飲ませてくれと言った。ツ・フルフルは父に教わった通りに ルペの鼻に水をかけたので、ルぺが怒り出して、彼を殴った。彼は泣き出して、自分はルペが叔父さんでヒネがお母さんで、チニラウがお父さんだと思っていたのにと独り言を言ったが、ルペの耳には入らなかった。
それからまた暫くたつと、ヒネが踊り出した。それwお見ると、ツ・フルフルは父に教わった歌を繰り返して歌った。するとヒネが腹を立てて同じ歌ばかりで面白くないと言って、ツ・フルフルを殴りつけた。ツ・フルフルは泣き出して、自分はルペが叔父さんでヒネがお母さんで、チニラウがお父さんだと思っていたのにと独り言を言った。ヒネはその言葉を聞くと、眼の前にいる真っ黒な若者が、自分の子であると言うことを悟って、心から喜んだ。
ツ・フルフルは母と叔父とを連れて、父の家に帰ってきた。父は大変喜んで、カエという男を遠方から招いて、ツ・フルフルに洗礼を施してやった。カエはチニラウに向かって鯨をもっていてどこに行く時もそれに乗っているのかと尋ねた。チニラウは得意そうに答えた。カエは鯨に乗って帰りたいから貸してほしいと言った。チニラウは快く引き受け、鯨の取り扱い方を詳しく教えた。カエは鯨の背に乗って、海を越えて自分の家に帰ることにしたが、鯨が浜辺に着くと、いきなりそれを叩き殺して食べた。そうと知らないチニラウは幾日も幾日も愛する鯨のかえってくるのを待って待っていた。しかしいくら待っても鯨はかえってこなかった。今までこんなことは一度もなかったと不思議に思っていると、折から南風に乗って鯨の肉を煮る匂いが強く彼の鼻を打った。チニラウはたちまち怒り、仕返しをしようと叫んだが、相手は名高い利口者であったので、計略を巡らさねばならなかった。チニラウは自分の妻のヒネやその他の女を呼んで、ケのいる所を探し出してほしいと言って、カエが歯が欠けているから、それを目印に探すように言った。口を開かなければ、歯が欠けているかどうかはわからないだろうと、女たちが言うと、チニラウは笑って、それには女たちが踊りを踊って、可笑しな歌を歌って見物の者がみんな笑い出すからすぐにどれがカエであるかわかると教えた。
ヒネたちは教わった通りにして、首尾よくカエを見つけると、その夜、彼女たちはいっせいに激しい呪文を唱えた。その力でカエはまるで死人のように眠りこけるとヒネたちは眠りこけているカエを抱え上げて、舟に持ち込むなり、大急ぎでチニラウの所に漕ぎ戻ってきた。カエはまだぐっすり眠っていた。チニラウは火をともして、ご馳走を並べて立てた後で、カエを揺り起こした。カエは寝ぼけた眼で、きょろきょろあたりを見回していたが、チニラウが、目が覚めたら旨い物を食べることにしよう、向うにある床に腰を掛けるがいいと言うと、木の葉や歯朶(しだ)でこしらえた床を指さした。床の上には真っ赤に焼いた石がいくつもかくしてあり、カエが何気なくその床に腰を下ろすとご馳走に手をさし伸ばした。途端にヒネたちが、床の上にさっと水を注ぎかけたので水は木の葉や歯朶を通して、焼石の上に垂れかかったので、たちまち雲のように上記が立ち上って、あっという間もなくカエを無視殺してしまった。(マオリ族)

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人食い鵜の鳥

あるところにウタという男が住んでいた。ある日ウタは、漁から帰って来て、妻のホウメアに、魚がたくさん取れたから家へ運ぶために浜辺に加勢しに来るように頼んで浜辺に引き返してきた。しかしいくら待っても、ホウメアは海辺にやってこなかった。ウタは腹を立てて、家に帰って、なぜ来なかったのかと妻を責め立てた。妻は平気な顔をして子供たちが自分の言うことを聞かなかったからと答えた。そしてしばらくすると、自分だけこっそり家を抜け出して浜辺に行って、舟の中にあった魚を、一人ですっかり食べてしまった。それからあたりの草をちぎったり、藪(やぶ)を踏みにじったり、砂の上に沢山の足跡をつけたりして、掠奪隊がやって来て魚を盗んだように見えると言って得意そうに笑った。
彼女は息をせききって、家に駆け戻った。そして、魚が盗まれたこと、足跡があるから掠奪隊の仕業だろうことを言った。夫のウタはこれを聞くと、自分を騙そうとしている浅はかな考えを見抜いたが、うわべだけは彼女の言葉を信じたような顔をして、そのまま眠りについた。ホウメアは、翌日も同じ手段で一人で魚を食べてしまって、知らぬ顔をしていた。しかし、ウタはあらかじめ子供たちに言いつけて、ホウメアの後をつけさせたので、彼女の仕業がすっかりわかってしまった。
ホウメアは、自分の悪い事は棚に上げて、ひどく子供たちを恨んで、ひどい目に合わせてやろうと決心した。で、翌日夫のウタが漁に出かけるのを待って、一人の子供に水を汲みに行くように言った。そしてその子供が家を出るや否や、残っている子供をひっつかんで、頭から呑んでしまった。暫くすると、先の子供が水を汲んで帰ってきたが、ホウメアはそれも頭から呑んでしまって、大きなお腹をして、うんうん唸りながら寝込んでいた。漁から帰ってきたウタは驚いて、どこか悪いのかと尋ねた。ホウメアは急に体の具合が悪くなったのだと答えた。ウタは子供はどこにいるのかとあたりを見回しながら尋ねると、ホウメアは子供は逃げ出した、ほんとうにしょうのない奴らだと答えた。しかしウタは、妻が嘘をついていると思ったので、激しい呪文を唱えると、彼女は、たちまちお腹から二人の子供を吐き出してしまった。それを見ると、ウタは驚き恐れて、ひどい女だ、うかうかしていると自分たちの命がなくなる。どうにかして逃げ出さなくてはと思った。それで妻に向かって、水を汲んでくるように言うと、妻は何気なく家を出た。その後で、ウタは呪文を唱えて、水という水を隠してしまったので、ホウメアは水を探し出すために、遠くまで行かなければならなかった。その間にウタは家や木やその他の物に、ホウメアが自分たちを呼んだら代わりに返事をしてくれと頼んで、大急ぎで丸木舟に乗り込むと一生懸命に沖合に漕ぎ出した。しばらくすると、オウメアが水を汲んで帰ってきた。家にちかくなっても人影が見えないので、彼女は変に思って、夫や子供の名を呼ぶと家や木が返事をしたので声のする方に行ってみると、誰もいなかった。彼女はすぐに海辺へかけて行くと、遥か沖合に夫の舟が見えたので、逃がすものかと鵜の体に入り込んで、そのあとを追いかけた。ウタは鵜が凄まじい勢いで船に近づいているのを見ると、すっかりおびえてしまって、物陰に隠れていしまった。鵜は舷(ふなばた)に迫って、二人の子供に、自分の餌食はどこにいるのかと尋ねた。子供たちは黙って鵜の口に魚を投げ込むと、すぐにそれを呑み込んでまた、自分の餌食はどこにいるのかと尋ねた。子供たちは大きな魚を食べさせるからもっと口を開いてくれるように言った。これを聞くと、鵜はできるだけ広く口を開き、途端に子供たちは炉の中に焼けていた真っ赤な意思を火箸で挟んで、その口に投げ込んだので、恐ろしい人食い女は、無惨に焼け焦げて死んでしまった。(マオリ族)

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しっぺい返し

ホウマイ・タワイチという男が飼っていた犬が、ウエヌクという男の神聖な持ち物を穢したので、ウエヌクはその犬を殺して食べてしまった。ホウマイ・タワイチの息子のタマ・テ・カプア兄弟は、急に犬が見えなくなったのを怪しんで、その名を呼びながら、あちらこちらと歩き廻っていた。そしてウエヌクが住んでいる村までやってくると、その呼び声に応じて、犬がウエヌクの腹の中からしきりにほえたてた。ウエヌクはびっくりして、その声の漏れないように、一生懸命に歯を食いしばってみたが、さっぱり駄目だった。タマ・テ・カプア兄弟はとうとう誰が犬を殺して食ったかということを知ってしまった。兄弟は仕返しするために、いったん家に引き返して、竹馬をこしらえた。そして夜になるのを待って、竹馬に乗って、ウエヌクの持ち物になっている果樹の所に行って、果実を盗み食いした。そんなことが幾晩も続いたので、果実はほとんどなくなった。ウエヌクはそれに気が付くと、果樹のあたりを見回した。と竹馬の足跡がありありと地面についていたので、その夜王税の人々と一緒に待ち伏せした。
夜が更けかかると、タマ・テ・カプア兄弟が、また竹馬に乗って現れてきた。待ち伏せしていたウエヌクたちは、たちまち踊り出して二人に襲い掛かった。タマ・テ・カプアは辛くも逃げおおせたが、弟のファカツリアはとうとう捕まってしまった。ウエヌクたちは、いろいろ相談した末に、屋根裏につるして置き煙にむせんで死んでしまうのを待つようにした。彼らはファカツリアをウエヌクの家の屋根裏につるして、自分たちは、火をともして踊りを踊り始めた。タマ・テ・カプアは、弟がひどい目に合っているということを聞いて、これを救い出そうと決心した。そして、ある夜音を建てないようにして、ウエヌクの家の屋根によじ登り、そして小さい穴を開けて中をのぞくと激しく手足を縛められて、屋根裏に吊り下げられているファカツリアの姿が目に付いた。タマ・テ・カプアは弟の耳に口をつけて、生きているかと囁くと弟も小さい声で生きていると答えた。そしてウエヌクたちは何をしているのかとタマ・テ・カプアが尋ねると、ファカツリアが家の中で下手な踊りを踊っていると答えた。タマ・テ・カプアは弟の耳に一つの計略を囁き込んだ。翌晩また踊りが始まり、ファカツリアが突然大きな声を出して、人々の踊りが下手でまるで踊り方を知らないようだと叫んだ。これを聞くと人々は一斉に踊りを止めて、捕らわれの癖に生意気だといい自分たちよりうまく踊れるつもりなのかと尋ねた。ファカツリアはうまく踊れると答え、縛りを解いてくれるなら実際に踊って見せると答えた。人々は躍起となって、踊ってみるように言って縄をほどき床におろしてくれた。ファカツリアはここが一番大事なところだと思ったので、疲れきった体を一生懸命にうまく動かして踊り出した。人々は彼の手ぶりのうまいのにすっかり感心した。しばらくすると、ファカツリアが人々に熱いので戸を少し開けるように言った。人々は何の気もなく戸を少し開けた。ところが、戸の外には、ファカツリアと示し合わせていた兄のタマ・テ・カプアが、さっきから忍び寄っていて戸が開くや否や、踊りまわっている弟に合図をした。弟はそれに気が付くと、矢のように家から飛び出た。うまく図られたと人々が叫びながらあとを追っかけようとすると、タマ・テ・カプアが素早く戸を閉めて、閂をおろしてしまった。そして家の中でわいわい騒いでいる人々を後にして、弟と一緒に自分の家に逃げ帰った。(マオリ族)

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崖と人間との伸比べ

モロカイ島の北岸に、非常に険しい崖があった。その崖の上にカピピカウイラという男が住んでいた。カピピカウイラは、ハカラニレオと言う男の妻ヒナの美しさに心を寄せて、言葉巧みに説きつけて、とうとう自分の妻にしてしまった。ハカラニレオは大変怒りもし恨みもしたが、力ずくではカピピカウイラに勝てそうになかったので誰か偉い男に頼んでヒナを取り返さなければならないと考えた。
そこで彼はあちらこちらと彷徨いまわっていると、カマルルワルという屈強な男に出会った。ハカラニレオは頼もし気な勇者を見つけたと思い、力が強そうだと言うと、カマルルワルは得意そうな顔をして自分の腹筋を見て欲しいと答えた。見ると、一方の脇腹は肉でできていますが、もう一方は石でできていた。ハカラニレオがそれに驚いていると、カマルルワルは、大きな石を摑んで、空にぶつかるほど高く投げ上げた。そしてそれが凄まじい勢いで落ちてくると、石の脇腹で苦も無く受け止めて、自分の力はこんなものだと言った。しかしそれくらいの力量では、ハカラニレオは満足できなかったので、彼はなおもあちらこちらを歩きまわっていると、ニケウという男がやって来て、ハカラニレオが素晴らしい勇者を探しているのかと尋ねてきた。ハカラニレオがそうだと答えると、ニケウはカウアに会うように勧めカウアの所まで連れて行った。
所が、ハカラニレオは、カウアの凄まじい形相におじ恐れて、言葉も交わさないで、そのまま逃げ出そうとした。とカウアは逃げなくてもいいだろうと言うと片手を伸ばして、ハカラニレオを摑んで、猫の手でも取り扱うように自分の側に引き寄せた。そして、頼みたいことがあるのかと尋ねると、カピピカウイラに妻を奪われたことを話し、妻泥棒を懲らしめるのを助けてほしいと言った。これを聞くと、カウアはすぐにその他のみを引き受けて、ニケウに、すぐに船を探してくるがいいと言いつけた。しかしニケウがいつまでも帰って来ないのを見ると、カウアは面倒くさいというなり、自分の手で即座に大きな樹の幹をかきむしったかと思うと、幹はまるで斧でえぐったように深くえぐれて、即座に二隻の丸木舟が出来上がった。
カウアは丸木舟を海端に持ち出して、ハカラニレオとニケウとを乗せて、それから自分も魔法杖を手にして乗り込んだ。途中には、いろんな障害が横たわっていた。大きな暗礁が立ち並んで、船の進みを妨げたり、大波が高い高い壁のように聳え立って、今にも船を一飲みにしようとしたり、海の怪物がいくつとなく現れて、船をひっくり返そうとしたりした。しかしカウアが魔法杖を振るってこれに立ち向かうと、すぐにこうした障害は消え失せた。とうとう舟は、カピピカウイラが済んでいる高い崖の下に着いた。カウアはニケウに向かって、崖を登って行って、ハカラニレオのお嫁を取り返してくるがいいといった。ニケウはすぐに崖を登り始めたが、あまり嶮しいので、二度まで途中から転がり落ちた。三度目にやっと崖の上までよじ登って、カピピカウイラの家に踏み込んで、ハカラニレオの妻ヒナを連れだした。かくと知ったカピピカウイラは、烈火のように怒り、一群の鳥に女を取り返すように叫ぶと、鳥どもは一斉に飛び立って、ニケウの上に来るなり、その頭の上に糞をした。そしてニケウが驚き騒いでいるひまに、ヒナを奪って飛び去った。ニケウはしおしおと船に帰ってくるとカウアは、ニケウが空手で帰ってきたのを見て、眼を怒らせて、なぜ女を連れてこなかったのかと詰った。ニケウは頭から鳥の糞を浴びたことを恥ずかしく思って、初めのうちは何かといいまぎらわしていたが、あまり激しく問い詰められて、とうとう今までの出来事をすっかり打ち明けた。するとカウアが奮然として、今度は自分の番だと叫び、船の中に立ち上がったかと思うと、見る見るその背が伸び始めて、やがて崖と同じ高さになった。しかし相手のカピピカウイラも負けじと、背を高くするならと崖の上に生えていた魔法の木の枝を伐り落とすと、見る間に崖がむくむくと動き出して、次第に高くなっていった。カウアはカピピカウイラの奴味をやるなと叫んで、いよいよ自分の背丈を伸ばした。しかし背丈が高くなるにつれて、彼の体は次第に細くなって行った。彼の体は芭蕉の幹のように細長くなった。それでもまだ伸ばしていると、とうとう蜘蛛の糸のように細くなり、ところが崖はどこまでも高くなり続け、さすがのカウアもすっかり参って、喧嘩は自分の負けだと叫ばねばならなかった。彼はへとへとになって、恐ろしく細長い体を海の上に横たえた。すると、脚はモロカイ島にかかり、頭はハワイのコナに届いた。コナには、カウアのお祖母さんが住んでいた。彼女は孫がやせ細っているのを見ると、可哀想にこれでは立ってもいられないはずだと言って山ほど食べ物を運んできた。カウアは喜んで、片端からそれを食べているうちに、むくむくと太った。
モロカイ島に取り残されて、むなしくカウアの脚を見つめていたニケウは、お腹が空いて堪らないので、カウアの脚を一本切り取って、むしゃむしゃと食べ始めた。カウアは、あまり長い体をしているので、脚を切り取られたことに気が付かなかった。しかし、時がたつにつれて、傷の痛みは、だんだんと脛、腰、腹、胸、肩と通り、とうとう頭に伝わった。カウアは痛いと叫んで立ち上がると、その時には、すでに一本の脚がなくなっていた。
しかし、カウアは太って力が尽きたので、再びカピピカウイラと戦いを始めた。彼はまず魔法の木の枝をすっかり切り取って、海の中に放り込んだ。これはカピピカウイラにとって大変困ったことだった。魔法の樹の枝がなくては、崖を高くすることができない。それを見すましたカウアは、また背丈を伸ばして、とうとう崖と同じ高さになった。と思うと、いきなり手を伸ばして、崖の上にまごまごしていたカピピカウイラを摑み殺した。こうして彼は、首尾よくハカラニレオの妻ヒナを取り返してやることができた。(モロカイ)

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継母物語

ある酋長の妻が一人の男の子と一人の女の子とを残して死に、酋長は心から子供たちを愛していたので、母親がいなくては子供たちが可哀想だと思い、後妻を迎えることにした。ところが、継母は二人の子供を可愛がってくれないばかりか、何かにつけてひどく叱ったり、殴ったりするのであった。そのうちに酋長は、用事があって、長い旅に出かけることになった。継母得たりと思って、ますます子供たちをひどい目に合わせた。
二人の子供はとうとう堪り兼ねて、家から逃げ出した。そしてとある洞穴の中に隠れて、寂しい月日を送っていた。水の精がそれを見て、可哀想だと思って、二人のために飲水を汲む泉と、身体を洗う池とをこしらえてくれた。
やがて酋長が帰ってくると、彼は後妻のために大切な子供を失ったことを悲しんで、彼女を殺して、自分も死にました。水の精がこしらえた泉は、ポウナホウの泉として、今日でもハワイに残っている。(ハワイ)

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人間鮫の大暴れ

ウミ王がハワイを治めていたころに、ワイピオにカレイという美しい乙女が住んでいた。カレイは牡蠣が大好物で、毎日のように浜辺に出掛けた。波が高い時などは、岩の間に牡蠣を探し回るのは危険であったがそれでもやはり出かけていた。
鮫の王カモホアリが彼女を見て、深く思いをよせるようになり、ある日カレイが、いつものように岩の間で牡蠣を取っているのを見すまして、俄に高波を立てた。波はカレイの体を包んでしまったので、彼女はまさに溺れ死にそうになった。カモホアリはすぐにりりしい若者に姿を変えて、彼女の側に駆け寄るなり、たくましい腕で危ない命を救った。カレイは、高波が鮫の王の仕業であったとは夢にも思わないため、心から若者に感謝した。そして磯辺に並んで、いろいろ話し合っているうちに、二人はすっかり仲良くなり、その後毎日のように二人で会うことにしていたが、とうとう夫婦になった。しかし若者は結婚をしても、自分の素性だけはどうしても打ち明けなかった。妻のカレイには、それがなんとなく物足らなかった。そうしているうちに、ある日、若者が言葉を改めて、カレイに、別れなくてはならないときが来た、そしてカレイがまもなく男の子を産むからどんなことがあっても、生き物を食べさせないようにして、生まれた子には普通の口の他に背中に鮫の口がついているから、いつも布を被せて、誰にも見せないようにしてもらわねばならない。と話した。と思うと、驚き悲しむカレイの側を離れて、海の中に踊り込んだ。カレイは間もなく男の子を産んだ。見た所は普通の赤ん坊であったが、口が二つ付いていた。一つは普通の口でもう一つは、双の背骨の間に、あんぐりと開いて、剣のような歯がずらりと並んでいた。これを見たカレイは夫がどうしてもその素性を明かしてくれなかったわけがやっとわかった。彼女は鮫の子を産んだ。カレイは、夫に教わった通りに子供の肩に布を被せて、奇怪な口が人目につかぬようにしてやると、両親や親族の者にだけ、子の素性を明かして、決して生き物の肉を食べさせないようにするように頼んでおいた。子供の名前はナナウエといった。お祖父さんが孫の可愛さにその戒めを忘れて、ナナウエに魚の肉を食べさせてしまった。するとナナウエは急に貪食となって、池や海に飛び込んでは、驚くほどたくさんな魚を捕らえて、むしゃむしゃと食べてしまうのであった。
ナナウエは年をとるにつれて、筋骨逞しい若者になった。しかし鮫の口を他人に見つけられるのを恐れて、どんなことがあっても、他の若者たちと一緒に水浴に行くことはなかった。彼はよく働き、毎日のように畑に出て、芋を掘っていた。そんなときに、村の人が水浴びをするために、その畑の側を通ると、彼はきっと、水に入るなら、鮫に喰われるといけないからよく気を付けるように、といって青田からにやりと笑うのであった。そうした注意の言葉を受けた者に限って、きっと水浴の最中に、現れた大きな鮫に食い殺されるのであった。村の人たちには、それが不思議で堪らなかったが実はナナウエが、いつも畑からこっそり飛び出して、水浴に行く人の後をつけて、その者が見ずに入ると自分も水に入って鮫に姿を変えて、取って食うのであった。生物の肉に味を占めた彼は、鮫の本性を現して、どうしても人間を食わずにはいられないのであった。
そのうちに、ウミ王が、若者という若者を呼び出して、広い土地を開墾させることになった。ナナウエにももちろん呼出状が来たが、鮫の口を見つけられては大変だと思って、出かけませんでした。初めの日はそれで済んだが、二日目にはどうしても出かけなければならなかった。仕方がないので、他の若者たちに混じって、一生懸命に働いていると、彼の側で仕事をしていた一人の男が、ナナウエがなぜ肩の布を取らないのか、仕事の邪魔になるのではないかと言って、手を伸ばして、布をはぎ取った。すると、剣のような歯の立ち並んだ大きな鮫の口が、もの欲しそうにわくわく動いているので、みんな顔色を変えて騒ぎ立てた。恐ろしい秘密を暴かれたナナウエは烈火のように怒って、あたりにいる者に、だれかれのかまいなく、鮫の口で咬みついた。人々は大騒ぎをして、彼を縛り上げるとウミ王の館にひっぱって行って、大勢の者を食った鮫が見つかったと言ってナナウエを引き出した。王は人々に命じて、この奇怪な人間鮫を焼き殺させることにした。やがて火が炎々と燃えあがり、それをじっと見つめていたナナウエは突然大きな声で、自分の父である鮫の王に助けを求めた。するとたちまち彼の体に素晴らしい力が湧いてきて、一振り体を振ったかと思うと、丈夫な縛の綱が切れてしまった。ナナウエは助かったと思い、自分を比氣捕えようとして群がってきた戦士たちを突き飛ばしながら、ひたすら海端へとかけ続けた。そして一筋の川が海に注ぐところに来ると、わざと岩の上に突っ立って、追手の者どもが近づくのを待っていた。
追手はだんだんと近づいて来た。そして真っ先に立った一人の戦士が腕を伸ばして、あわや彼の体を摑もうとした一刹那、彼は身を躍らして、水の中に飛び込んだ。と思うと、たちまち大きな鮫に変じて、今や岩の上に群がってきた追手の人々をからかうように、尻尾で水を叩いたり、腹を植えにひっくり返したりして見せた。
人々はナナウエを取り逃がしたことを大変口惜しがって、彼の母や親類などをひしひしと縛り上げて、ウミ王の前に引きずってきた。人々は殺気立って、口々に早く首を切り落とせだの、ナナウエを焼き殺すための火の中に放り込めだのと叫びたてた。しかし、ウミ王は彼らよりも一層考え深いたちだったので、ナナウエの母カレイに向かって、どうしてこんなに恐ろしい子を産むことになったのか尋ねた。カレイは鮫の王カモホアリが若者に変じて近づいたことを詳しく話した。ウミ王は、カモホアリが偉大な海の神であることをよく知っていたので、後の祟りとナナウエの復讐を恐れて、ナナウエの母や親類を許してやったばかりでなく、お坊さんたちに命じて、鮫の王カモホアリにさまざまの供物を捧げさせた。すると鮫の王が、お坊さんに乗り移って、その口を借りて、自分の子供が乱暴を働き大勢の者を殺したことは気の毒だ、ナナウエに言いつけて永久にハワイの海辺から立ち去らせもしナナウエが自分の言うことに背いたら手下の鮫が見つけ次第に殺してしまうであろうと言った。こうしてナナウエはハワイ島を去ってほかの島に行った。しかしそこでまた鮫に変じては人々を取って食べたので、とうとうその土地の神に殺されてしまった。(ハワイ)

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鮫の神の助力

モロカイ島に、クパという王様がいた。この王様に仕えているお坊さんに、カマロとい者がいて、二人の男の子を持っていた。二人の男の子は手の付けられないような悪戯もので、あるときクパ王が遠くまで漁に出かけた留守を狙って、二人は王の館に忍び込んだ。そこで神にささげた太鼓が目に付いたので、すぐに悪戯気を起こして、しきりにそれを叩き始めた。それを見た人たちはすぐにクパ王の出先に駆けつけ、カマロの子供たちが、館の太鼓を叩いていると告げた。王様はこれを聞くと火のように怒って、家来たちを呼びだして、すぐにカマロの子供を捕まえて殺してしまった。父カマロは非常に王様を恨んで、年の若い者をちょっとした過ちで殺すという法があるものかと仇をとると自分の胸に誓った。モロカイ島の東の果てにラニカウラという魔法使いが住んでいた。カマロは、この魔法使いに加勢をしてもらうつもりで、贈り物にするために一頭の黒い豚を連れて旅だった。すると途中で体の上半身のない一人の男に出会った。カマロは驚き怪しんで、どうしてそんな体になったのかと尋ねると、相手の男は鮫にやられたと答えた。カマロは気の毒に思い、自分もクパ王に二人の子供を殺されたことをどうにかして仕返しwおしようと思っているとカマロが言った。これを聞くと、相手の男は目を輝かして、もしカマロが誰かを殺してその下半身を自分の体に継ぎ合わしてくれるなら、喜んでクパ王に仕返しをすると言った。しかし、カマロは相手の男の言葉を信ずることが出来ず、そのまま聞き流して、魔法使いラニカウラの所に行った。そして、二人の子供がクパ王に殺されたことをはなして報復を頼んだがラニカウラは頭を振って、それは気の毒だが自分の力ではできないから、島の西の端にカネアカマという予言者がいるのでそのものに頼むと良いと言った。
カマロは豚を連れて、モロカイ島の東の端から西の端まで歩いていくと、そしてカネアカマを訪れると彼は自分の力ではだめだから、この島の風側にカヒワカアプウというお坊さんがいるので頼むと良いと教えた。
カマロはまた豚を連れて、モロカイ島の風側に行った。そしてカヒワカアプウに会って、クパ王に対する報復を頼むと、この男も頭を振って、自分ではだめだから、この島のもっと風側に波打ち際に奇妙な洞穴があって、カウフフという鮫の神が住んでいるからその神に頼むと良いと言った。
カマロはまた豚を連れて、その洞穴の所に行くと、鮫の神に仕えている二人の番人ワカとモオとが声をそろえて神聖な場所に入るな、洞穴の中に入ると命がなくなると叫んだ。カマロは自分の命がなくなろうと、なくなるまいと、二人の子供の敵討ちが出来たらそれでいいと言っていままでのことを詳しく話して聞かせた。すると、二人の番人は気の毒に思い、洞穴に入りどこかに隠れているようにと言って、カウフフが漁に出かけていること、見つかったら二人の番人もカマロも命がない事を伝え気を付けるように言った。
カマロは洞穴の中に入ってみたが、どこにも安全に隠れる場所がなかった。仕方がないので、二人の番人は、芋の皮やがらくたなどが山のようになっている下に豚とともに隠れた。暫くすると、高波が八度ほど後から押し寄せてきて、大きな岩にぶつかった。そして飛んで砕けて、雪のような泡となると、その間から鮫の神が悠然と現れ出た。彼は人間牡姿に変じて洞穴の中に入ってきたが、すぐに鼻を鳴らしてあたらいを嗅ぎまわりながら、二人の番人に向かって、人間が来ているといった。番人たちは熱心な口調で、そんなことはない、神聖な住居を人間にけがさせることは考えても恐ろしい事だと答えた。しかし鮫の神は彼らの言葉を信じないで、洞穴の中をくまなく探し回った。しかし芋の皮の下にもぐり込んでいるとは思わないので、どうしても見つからなかった。確かに人間の匂いがすると独り言を言っていると、カマロの豚が出し抜けに大きな声を立てた。鮫の神は芋の皮の下にかくれていると叫ぶと、いきなり芋の皮をはねのけて、カマロを引き出すや否や、大きな口を開いて一飲みに呑み込もうとした。カマロは頭と肩とを飲まれながら、一生懸命になって、カウフフに自分を食べる前にいうことを聞いてほしいと叫んだ。鮫の神はカマロを地面に吐き出し話すように言った。カマロは今までの出来事を話して、連れてきた豚を鮫の神の前に捧げた。鮫の神はそれを聞くとひどく可哀想に思って、クパ王に報復をすることにした。そして、そのためにカマロがカウフフいう通りにしなくてはならないと言って、家に帰り、神聖な垣を巡らして白布の旗を立て、黒い豚と赤い魚と白い鳥を集めて、カウフフがくるのを待っているように。また、しばらくすると、人間の手くらいの小さな白雲が現れて、次第に大きくなり谷から谷へ虹が現れたら、カウフフがやって来て、報復を始めたしるしと思うように伝えた。
カマロは嬉しさに胸を躍らせながら、家に帰って、何もかも鮫の神に教わった通りにした。そして毎日毎日空を仰いでいると、とうとう人間の手くらいの白雲が、ラナイ山の上に立ち昇り、それがだんだんと大きくなって、吹く風に山や谷に広がったと思うと、やがて美しい虹が谷から谷へ橋を架けた。と思うと、たちまちすさまじい風がふきだして、篠を突くような大雨になった。みるみる洪水が起こりクパ王や家来たちをことごとく海に押し流した。と、鮫の神の命を受けて、水の中に待ち構えていた沢山の鮫どもが、彼らを片っ端から呑んでしまった。ただ、カマロとその家族だけは、神聖な垣根の中に囲まれていたので、洪水n買いを受けなかった。(ハワイ)

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梟の戦い

ホノルルのカヘフナにカポイという男が済んでいた。ある日、彼は家を葺くために萱草(かやくさ)を狩りに出かけた。そしてそれをせえ追手帰ってくると、梟の卵を見つけた。それで持って帰って、木の葉に包んで、熱灰のなかでそれを焼こうとしていると、家の周りの垣根にとまっていた一羽の梟が、カポイに卵を返してくれと言った。カポイは卵をいくつ持っていたか尋ねると、七つと答えた。カポイはその七つの卵を焼いて、夕飯にしようとおもっているといった。梟は気を焦ってまた、卵を返してくれと叫んだがカポイはやはり夕飯にするのだと答えて、取り合わなかった。梟はとうとう怒りだして、カポイを無慈悲だ、なぜ自分を可哀想だと思ってくれないのかと叫んだ。カポイはそんなに卵が欲しいなら自分で取りに来ればいいと言った。梟は喜んで家の中に入って来て、自分の卵を受け取った。そしてお礼心に、カポイに向かって、お宮を建ててマヌアと名付けて毎日祭壇の上に供物を捧げると長生きをすると教えた。
カポイは教わった通りにした。するとオアフの王様が、その噂を聞き込んで、ひどく腹を立てた。
オアフの王様は卑しい身分でありながら自分と同じような社を建てて、お祭りをするのがけしからぬと言ってすぐに家来たちに命じてカポイを捕らえさせた。そして、日を定めて彼を死刑に処すことになった。これを聞き込んだ梟は気の毒なことになったので助けてやらなくてはと考えて、島中を飛び回って、梟の仲間をことごとく呼び集めることにした。処刑の日になると、夜も明けきらぬうちに、夥しい梟が、ホノルルの空を覆いつくすほど飛び出した。王様の家来たちは、何事だろうと思って、うっかり空を仰いだと思うと、梟どもがさっと舞い降りて来て、鋭い嘴をそろえて、彼らの顔を突つき始めた。王の家来たちはびっくりしながら、鳥の癖に生意気だと一生懸命になって梟と戦ったが、とうとう打ち負かされて、カポイを残して、ほうほうの体で逃げ去ってしまった。それ以来、ハワイの人たちは、梟を神として崇め尊ぶようになった。(ハワイ)
※この話は「ジェー・エム・ポーポー氏(J.M.Poepoe)がいっているように、古代ハワイに流布した動物神話のよい標本の一つであり、そしてハワイの宗教神話系体における梟の位置がどんなものであるかの証示するものである。

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若人の死

ラナイ島の西南端にプウペヘの墓と呼ばれるところがある。なぜそう呼ばれているかについては、一場のうら悲しい伝説が存している。マウイの王様の家来で、地方の酋長をしていたウアウアに、プウペヘという美しい娘があった。彼女の星のような目に引き付けられて、とうとうその愛人となったのは、マカケハウという若い戦士だった。マカケハウはプウペヘがあまりに麗しいので、いつも他の男の狙いの的になりはしないかということを心配していた。そこである日、彼はプウペヘに向かって、一緒にマラウエアの洞穴に住むことにしよう、あそこなら、人目に付かないで、思いのままに二人で楽しい生活ができるに違いないと言うと、彼女もすぐにそれに同意した。
やがてマラウエアの洞穴の中で、若い二人の楽しい生活が始まった。ある日マカケハウは、洞穴の中に愛する乙女を残して、山の中の泉に水を汲みに行った。しかし、暫くすると、にわかに天気が悪くなって、激しく吹き出した風に、海の上一面に高波が騒ぎはじめた。
マカケハウはこんなに海が荒れだしたら、洞穴にも波が打ち込んでくるだろうから大変だと考え水をくむための瓢を地面に放り出して、一散に駆けだした。風は嵐をついて、谷を渡り丘を越えて、一気にマラウエアの洞穴に駆けつけた。しかしすでに洞穴の中は一面の水となっていた。彼は気違いのようになって、その中に飛び込んだ。揺れ騒ぐ水の中には、プウペヘが蒼白い顔に、神をまつわらせて溺れ死んでいた。
翌日、大勢の漁夫たちが、痛ましいマカケハウの嘆きの声を聞きつけて、洞穴の所に集まってきた。彼らはプウペヘの体を、真新しい布に包んで、たくさんの花束をその上に載せて、マネレの墓地に埋めようとした。マカケハウは狂ったようにそれを押し止めて、せめてもう一夜自分だけプウペヘの側にいさせてくださいと頼んだ。漁夫たちは、その心根を憐れんで、その言葉に従った。夜が明けて、漁夫たちが再び洞穴の所に行ってみると、プウペヘの亡骸も、泣き崩れるマカケハウの姿も、消え失せていた。
漁夫たちは驚き怪しんで、あちこちを探し回った。思いがけなくも、マカケハウは、とある絶壁の上に突っ立って、一生懸命になって石を積み上げていた。その絶壁は四方が切り立てたようになっていて、とても人間の登れるところではなかった。漁夫たちは、あきれたような顔をして、絶壁の頂を見上げながら、どうしてあんなところに登れたのだろう、きっと精霊か神様がマカケハウの祈りを聞き入れて、死んだ乙女と一緒に、あそこに連れて行って下さったのだろう、などと話し合っていた。
そんなことにはまるで気が付かないような風で、マカケハウは一生懸命に恋人のための墓をつくり続けた。そして彼女の亡骸を埋めた墓の最期の石を載せ終わると、双の腕をさし伸ばして、プウペヘを悲しむ歌を歌った。
プウペヘ、そなたはどこにいる
マラウエアの洞穴にいるのかえ
美味しい水を持て来よか
山のお水を持て来よか
水鳥、木の実を持て来よか
海亀、赤い実、美味しい実
それらをそなたは煮てるのか
マウイのカロ(一種の野菜)をつきましょか
それとも一緒に水汲もか
鳥も魚もみな苦い
山のお水は酸っぱい
わしはお水をもう飲まぬ
マネレの大鮫アイプヒと
一緒に何か飲みましょう
歌が終ると、彼は絶壁の頂から遥か下ににえかえる大波めがけて、身を躍らせた。
彼の体は岩に砕け微塵となった。この痛ましく悲しい場面を見た人々は、彼の亡骸を拾い集めて、恭しくマネレの墓地に葬った。(ハワイ)

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体に還った亡魂

ハワイでは、昔、王様たちは皆自分の幼児をさせるために、足の速い者を特に雇っていた。ハワイの言葉でそんな人たちのことを、クニキ(訓練せられた走者)といった。
マウイの王様のカカアラネオも、そうした走者を持っていた。その走者の名はエレイオといった。ある時カカアラネオ王もそうした走者をもっていたが、その走者の名はエレイオと言うのでした。あるときカカアラネオ王は、アワ(苦くて三位のある植物で、その根から人を酔わせる飲み物が醸される。飲料もアワという。)が欲しくなった。そこで走者のエレイオを呼んで、ご苦労だが、ハナまで一走りして、夕食までにアワを持ってきてもらいたいと言いつけた。
エレイオは、足の早い奏者、クニキであったばかりでなく、また巫術者であった。彼はさまざまの呪文や儀式に通じていて、それを使って精霊や幽霊を呼び出したり、さまよっている霊魂を、死人の体に引き戻したりすることができた。彼は王様の命を受けると、すぐにアワを手に入れに出かけた。途中でアアラロロアの坂道を上っていると、自分の目の前に一人の美しい女が歩いているのに気が付いた。エレイオはいい道連れを見つけたと思い追いつこうと次第に足を早めた。ところが不思議なことには、いくら急いでも歩いても、自分と女との隔たりは、少しも減らなかった。名うての速足と人も許し自分も信じていたエレイオは、ひどくそれが気になった。いくら足が速くても、女だ、それに追いつけぬとあれば顔がつぶれると思って一生懸命に足を速くしたが、それでもなかなか追いつけず、女はやはり彼の先に立って、平気で岩を越えて、丘を越えて、山を越えて、深い谷を過ぎ、小暗い流れを渡って行った。エレイオはもう歯を食いしばって駆け出した。そしてカヒキヌイのハマヌロアの岬に来た時に、やっと女に追いついたが、その時には、もう、とある埋葬塔の入口が目の前に見えていた。エレイオの足音を聞くと、女は振り返って、自分を生き返らせてほしい、自分は生きた人間ではなく、亡霊で、埋葬塔の中に住んでいるといった。
エレイオは自分もさっきからそうだろうと気が付いていた、生きた人間が自分より足が速いはずがないというと、女はお友達になりましょうと言って、自分の両親や親類の者が向こうの家に住んでいるので、豚や布や蓆や羽根でこしらえた上衣を貰いたいと言うようにと告げ、上衣はまだ出来上がってはいないが仕上げるだけの羽根が家の中にしまってあるから、家の者にそう言って仕上げてもらうように言って、怪しい女は姿を消した。
エレイオは不思議に思って、埋葬塔の中に入ってみると、さっき会った女の死体が、冷たくて横たわっていた。エレイオは塔を出て、大急ぎで乙女に教えられた家を訪れると、一人の女が泣き悲しんでいた。その顔が、乙女の顔にそっくりで早くも乙女のお母さんと悟って、自分が初めてこの土地に来たが、道連れになった、一人の乙女が、自分を埋葬塔の所まで案内して、それからふっと消えてしまった、と話した。女はこれを聞くと驚き怪しんで、急いで自分の夫を呼び、エレイオは二人に向かって、乙女の亡霊が教えた通りのことを申しだした。夫婦はいよいよ驚いて、エレイオが言うことは皆本当だといって、道ずれいったのが娘の亡霊に違いなく、もらい受けたいという品々は喜んで差し上げると話すと、豚や布や蓆や羽根でこしらえった上衣などをすっかりエレイオに与えた。エレイオは大変喜んで、彼らの娘の亡霊を呼び戻してやろうと決心した。そこで彼らに頼んで、亡霊を呼び戻すいろんな儀式の準備をしてもらうことにして、自分はハナに行って、王様のためにアワを手に入れた。エレイオが引き返してくると、儀式の準備がすっかりできていて、エレイオは最上に座り込んで、順序んを唱えたり、神へ祈りを捧げたりした。と、乙女の亡霊がふらふらとかれの側に引き付けられてきたので、手早くそれを捕らえて、埋葬塔の中に駆け込んだ。彼は乙女の足の裏に亡霊を押し付けて、頻りに呪文を唱えると、その力で亡霊は足の裏から膝の所まで入り込んできたが、それから先にはどうしても進もうとしなかった。エレイオはここが大事の瀬戸際だと思い、一生懸命に呪文を唱えると、亡霊は、その強い力に駆り立てられて、喉の所まで進んでいった。が、ここでまたぐずつき始めました。それを見た両親や親類たちは、エレイオに力を合わせるために熱心に神に祈った。亡霊はやむなく喉を通り過ぎて体中を一巡した。すると、今まで冷たくなっていた乙女が目を開いて生き返った。両親は夢かとばかり喜んで、娘は、全くあなたの力で、命拾いをした。どうかあなたの妻にしてくださいと言った。しかし忠義心の深いエレイオはその言葉をさえぎって、娘は自分よりずっと身分の言い方に差し上げなくてはいけない。娘のような美しい方は、妃となるべきで、自分の主人のカカアラネオの館に連れて行くと言った。
エレイオは、美しい乙女を連れて帰途に就いた。王様の館が知覚なると、彼は乙女に向かって、藪の中に隠れて待っているように言った。もし日が暮れても自分が戻らなかったら死んだものと思って、親御の所に帰るように、事がうまく運んだら、自分は間もなく引き返してくると言った。乙女はその言葉に従って藪の中に潜り、エレイオはそれを見届けて道を急ぎ、王様の家来たちが大きな竈にどんどん火を焚いているのに目が付いた。家来たちはエレイオを見ると御諚だ神妙にしろと叫ぶと躍りかかり、彼を縛り上げた。エレイオがアワを取りに行っていつまでも帰らなかったから王様がひどくお怒りになって見つけ次第焼き殺せとという言いつけだと言って、エレイオを竈の中に放り込もうとした。エレイオはどうか王様の脚元で死なせてほしいと熱心に頼んだ。家来たちは可哀想だと思って、乞われるままに、エレイオを王様の前に連れて行った。王様は彼を睨みどうして来たのか尋ねた。エレイオは命を落とさなくてはならないとすれば、ご主人の御前死にたいと、自分が死ねば、王様に損が生じる旨を告げた。王様は怪しんで、どうしたわけかと尋ねた。エレイオは携えていた包みを開いて羽根の上衣を取り出した。こうした贅沢な衣はハワイの島々ではまだ誰も聞いたこともなくみたこともなかったので王様も家来たちも驚きの目を見張った。いうまでもなく王様はすぐにエレイオを許して、どこでこの珍しい品を手に入れたのかと尋ねた。エレイオは乙女からもらい受けたと言い、乙女をすぐ近くに待たせているからお会いしてほしいと言った。王様は会うことにして、礼を言いたいから連れてくるようにと答えた。エレイオはすぐに藪の所に引き返して、その中に隠れていた乙女を連れてきた。王様は、彼女を一目見ると、その美しさと淑やかさとにすっかり魂を奪われて、すぐにお妃に取り立てた(ハワイ)

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無実の罪

昔、アカアカと呼ばれる「山嘴(やまのはし)」と、ナレフ・アカアカという「藪(やぶ)」とが、人間の姿となって、夫婦になった。そして二人の間にカハウカニという男の子と、カウアクアヒネという女の子が生まれた。カハウカニは「風」であり、カウアクアヒネは「雨」であった。
「風」と「雨」とは、また人間の姿を取って、夫婦になった。そして、その間に生まれたカハラオプナという女こそ、いまから述べようとする悲しく痛ましい伝説の主人公である。
カハラオプナは、小さい時から驚くほど美しい女でした。彼女の頬はほの紅くて、顔から光明が照りさして、家の中が明るいくらいだった。彼女が泉に水浴びに行くと、身のまわりに丸い後光が輝いていた。カハラオプナは、子供のときにもうカウヒという若い酋長の許嫁になっていた。カウヒの両親は、こんな麗しい女を自分の息子の許嫁とすることができたのを大変喜んで、絶えず魚や蒸し団子などを、カハラオプナに贈っていた。
カハラオプナがあまり美しいので、大勢の若者が、ひそかに思いを寄せていた。そのうちにクマウナという男と、ケアワアという男がいた。二人とも下瞼が引きつって、ひどく醜い顔をしていたが、それにも拘らず、いつも、自分たちはカハラオプナに愛せられているのだといっていた。ワイキキの海で波乗り遊びが行われる時期となると、二人の醜い男は、いろんな花や歯朶などでこしらえた頭飾りをつけて、ワイキキの浜辺にやってきた。そして、波乗り遊びをするために集まってきた人々に、その頭飾りを見せびらかしては、美しいカハラオプナが愛の徴として自分たちに送ってくれたものだと自慢していた。それが大評判となって、とうとうカウヒの耳に入った。カウヒはハワイ一の美しい乙女を妻にする果報者と思い込んでいただけに、この噂を聞くと、前後の考えもなく、憎い女だ、自分の愛を裏切るとは、太い奴だ殺してしまえと決心した。彼は火の珠のように、まっしぐらにカハラオプナの家に駆けて行った。彼女は丁度眠りから醒めて、寝床の上で水浴に行こうと考えている所であった。カウヒは家の外から声をかけて、外に来るように言った。彼女はすぐに家から出てきて、カウヒはすぐにとびかかってころしてしまうつもりだったが、彼女があまり美しい姿をしていると、素直にいうことを聞いて家から出てきたのとで、少し気勢がそがれていた。彼は暫くの間、カハラオプナの顔を睨みつけていたがやがて自分についてくるように言った。彼女は何も言わずに、カウヒのあとについて歩み出した。そして歩きながら、なぜ私の家にいて、食事をしないのか尋ねると、カウヒはそっけない調子で食事なんかする気はないと答え振り返って恐ろしい目で彼女を睨みつけた。カハラオプナが怒っているのかと尋ねると、カウヒは皮肉に自分が怒るようなことをしたのかと言い返した。アイフアラマの大きな石のそばに来ると、カウヒは突然振り返って、深いため息をつきながら、ハラオプナは本当に美しいが自分をだましたので死ななくてはならないと言った。乙女はこれを聞くと、驚いて男の顔を見上げ、自分が死ななくてはならないならなぜ家で殺してくれなかったのか、自分がカウヒを騙したという証拠があるのかと問うた。しかし、カウヒは彼女の言葉を耳にも入れないで、いきなり樹の枝でそのこめかみを殴りつけた。女は地に倒れて息が絶えた。カウヒは穴を掘って、彼女の屍を産めて立ち去った。カウヒの姿がみえなくなったと思うと、一羽の大きな梟(それは神様で、そしてカハラオプナの親類であった)が現れて、爪と翼とを使って、土の中からカハラオプナを掘り出した。そして土を払いのけて、乙女の鼻の孔から息を吹き込むと、やがて乙女は生き返った。カハラオプナはすぐに歌を歌い出した。それはカウヒの不親切を嘆き、罪ならぬ罪を信じ込んでいる男心を悲しむ歌だった。まだ遠くまで行っていなかったカウヒは、歌声を聞くと、すぐに引き返してきた。そして乙女の側に歩み寄って、また、自分についてくるように言った。
カウヒは黙りこくって、林を抜け谷を渡って行くとそのあとについて行くカハラオプナは茨に手足を傷つけられ、着物を裂かれて、見るも痛ましい姿となった。とある山の頂に来ると、カウヒは、また樹の枝で彼女を殴り殺して、地に埋めた。すると、再び梟が現れて、彼女の体を掘り出して、生き返らせてやったが、乙女がまた歌を歌い出したので、カウヒがすぐに引き返してきた。こうして買う火が乙女を殺し、梟がそれを生き返らせることが四度になった。五度目には、さすがの梟も、爪の先がつぶれるし、翼の羽毛が擦り切れるし、どんなに気を焦っても、カハラオプナの屍を掘り出すことが出来なくなった。仕方がないので、彼女を生き返らせることは思い切って、ワイキキへと帰って行くカウヒのあとをつけることにした。しかし梟の代わりに、緑色をした一羽の小鳥が現れてきた。それはエレパイオといって、これもカハラオプナの親類であった。小鳥は、梟が乙女を生き返らせることが出来なかったのを見ると、大急ぎで乙女の両親であるカハウカニとカウアクアヒネの所に飛んできて、カハラオプナがカウヒに殺されてしまったことを話した。両親はカハラオプナが家にいなくなったのを知っていたが、カウヒの姿が見えたということだから二人でそこらを歩き廻っているのだろうと考えていたのであった。そこへ小鳥が飛んできて、こう話したので、いまさら大騒ぎをして、美しくて無邪気な許嫁の乙女を殺すなんてどうも変だ、正気の沙汰ではない、カウヒが乙女を殺すなんてそんなはずはない、小鳥の言うことは妖しい、と半信半疑の体裁であった。そうしているうちに、殺された乙女の霊魂は、屍の側を通りかかった人々の所に現れて、自分の体を掘りだしてくださいと言ってその有りかを教えた。一人の若者がその言葉に従って掘ってみると、まだ温みの去らぬ乙女の体を見出した。彼はそれを布や歯朶などで包んで、自分の家に担いで帰ると二人の精霊の助けを借りて介抱をするとカハラオプナはやっと生き返った。若者は心から喜んで、彼女を自分のお嫁にしようとした。しかし、カハラオプナはそれをおとなしく断って、命を助けてくれた御恩は忘れないが、お嫁になることは、どうか許してほしい、カウヒが生きている限り、私はその妻とならなくてはいけないと言った。これを聞くと若者の兄がそっと弟を呼んで、あの女は感心な女だ、ああいうからは、カウヒをいかしておいては、とてもお前のお嫁になる気はない。どうしてもカウヒを殺さなくちゃといった。若者もそれに同意した。そしてカウヒをやっつけるじゅんびとして、カハラオプナが、梟に生き返らせてもらったとき歌ったいろんな歌を覚えることにした。
すっかり歌を覚え込んでしまうと、若者は、人々がよく集まる遊技場に出かけた。カウヒも若い酋長である以上、きっとそこにやってくるに違いないと思ったからだった。果たしてカウヒは遊技場に来ていた。若者はわざとカウヒの相手となって、歌の技を闘うことにした。カウヒが歌い終わるのを待って、彼はカハラオプナの最初の歌を歌った。するとたちまち、カウヒが顔色を変えて、その歌をどこで覚えたのかと尋ねた。若者は心の中で思うつぼにはまったと思いながら、マノアの美人カハラオプナから教わったのだ、カハラオプナが自分の妹の友達で今自分の家に遊びに来ていると答えた。カウヒは、梟が最後にカハラオプナの屍を見捨てたことを知っているので、これを聞くと嘘をついていると責めた。若者は聞き捨てならぬと言って、やがて二人の間に争いが始まった。しかし王様の指図で、他の遊手がそれを押し止めた。次の夜も、その次の夜も、若者はカウヒに歌い比べを挑んで、カハラオプナの詩を順々に口にしたので、カウヒは堪り兼ねて、カハラオプナが生きて遊びに来ていると言ったが、それが本当であったら自分の命を進上する、しかし嘘であったら若者の命を貰うことにするつもりだがと言って賭け話を持ち掛けた。それを聞くと若者はいよいよ自分の思うつぼにはまったと喜んで、その賭け話を受け、王様や酋長たちを証人にして、命の賭けをすることにしようと言い放った。王様はこれを許して、賭けの日取りを決めてやった。
定めの日になると、カハラオプナは、両親や親類や二人の精霊たちを連れて、定めの場所に出かけた。カウヒは確かに女は死んでいるはずだが、亡霊が人間の姿となって、やってくるかもしれない。用心をしなくてはならないと思って、名高い巫術師たちを連れて、定めの場所にやってきた。もし、カハラオプナの亡霊が人間の姿となって現れたら、巫術師の力を借りて、その化けの皮を剥いでやろうと思ったのであった。巫術師たちは、王様に、アペの広葉を敷いてその上にカハラオプナを座らせることをお許しくださいと申し出た。というのは、人間であれば、膝の下の木の葉を裂くことができるが、亡霊にはそれができないからであった。王様は許可をだし、家来たちに言いつけて、アペの広葉を敷かせた。カハラオプナの一行が、定めの場所に近づいたとき、二人の精霊が、この女に、カハラオプナの一行が、定めの場所に近づいたとき、二人の精霊が、カハラオプナに自分たちが人間の姿をしているが、敷物の木の葉を裂くことができないからそれがわかると巫術師に捕まる心配がある。だから、あなた一人でうまく木の葉を踏みにじって、みんなの敷物が、すっかり裂けてしまうように頼んだ。いよいよ定めの場所に来て、木の葉の上に座ることになると、カハラオプナは精霊に教わった通りにした。巫術師の一人、カエアは木の葉がすっかり裂けたのを見て、カハラオプナは確かに生きているが側のに人間に化けた精霊がいるらしいと言った。これを聞くとカハラオプナのお祖父さんは、素早くその影を捕らえて、手のひらの中で摑み砕いた。途端にカエアはぐったりとなって死んでしまった。(自然民族はしばしば影と生命とを同一視する)このとき王様は、カハラオプナとカウヒとを自分の近くに呼び寄せて、いままでの出来事を隠さず話すように言いつけた。そのために、カウヒが二人の醜い男の偽りの言葉を信じて、罪もない乙女を殺したことがあきらかになったので、人々はみなカウヒの残忍な行いを憎んで、嘘をついた二人の醜い男とを一緒に焼き殺すことに決めた。すぐに海端に大きな竈が作られて、三人はその中に投げ込まれたが、その夜カウヒの親類である鮫の神が、高波を建てて竈を砕いてしまったので、三人の骨は海の中に流れ込んだ。そして二人の醜い男の骨はマノア渓谷の東の隅にある二つの峯に変じ、カウヒの骨は、恐ろしい鮫に変じた。カハラオプナは自分を生き返らせてくれた若者の妻となって、幸福な月日を送っていた。しかし彼女のお祖母さんはカウヒが鮫となって、孫の命を狙っていることをよく知っていたので、いつもカハラオプナに向かって決して海に入ってはいけないと戒めていた。カハラオプナもその戒めに従って、決して海に入らなかった。ある日、家の者がみんな畑に芋を掘りに行った。その日は天気の具合で、海の面が、波乗り遊びをするのにあつらえ向きだった。だから、若い女たちが、我も我もと海に行って、さも面白そうに笑ったり騒いだりして、波に乗っていた。それを見るっと、カハラオプナはもう堪らなくなって、お母さんが昼寝をしている隙に、そっと家を抜け出して、海の面に一枚の板を浮かべた。そして板に乗って、波の上を滑り始めたかと思うと、たちまち鮫になっているカウヒが現われて、あっと言う間もなく彼女の美しい体を二つに咬み切ってしまった。
他の女たちはこれを見て、大騒ぎをして、カハラオプナの家に駆けつけた。人々はすぐに幾隻かの丸木舟に乗り込んで、執念深い鮫を追っかけたが、鮫はうまく逃げ回って、どうしても銛を投げつける隙を与えなかった。そして、とううっとう海の底に沈んで、カハラオプナの体を食べてしまった。こうしてハワイ一の美人も、ついにもはや生き返ることが出来なくなってしまった。
カハラオプナの両親は、愛娘の死をひどく嘆き悲しんで、マノアの谷に引き込んで、人間の姿を棄てて元の身分に返った。即ち父親のカハウカニは「風」となり、母親のカウアクアヒネは「雨」となり、しかしいつまでも娘のことを忘れかねると見えて、いまでもカハラオプナが住んでいた土地に吹いて来たり、降って来たりする。それからカハラオプナのお祖父さんとお祖母さんも、人間の姿を棄てて、もとの山嘴となり藪となったが、この二人も孫のことが忘れられないで、カハラオプナが住んでいた家を、今も遠くからじっと見つめているそうである。(ハワイ)

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